サウダージ

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 控室に案内されると見晴らしの良い部屋に幾つもの椅子と長いテーブルが二つ用意されてて、そこにお茶菓子が置かれていた。 「お手洗いはお部屋を出て正面になります。売店はお部屋を出て斜め右、その裏側には自動販売機がございますので、ご自由にお使いください。もし何かお困りなことがございましたら、すぐにスタッフまでお申し付けください」  一通り説明を終えると、慣れないことにすっかり疲れ切っている親族たちが椅子に座って、お茶を淹れたり、お茶菓子を飲んだりしている。祖父だけボーっとしていて、周りは気遣ってか特に何も祖父に話しかけずそっとしていた。  孫である私たちは二つあるテーブルの中、子が座っているテーブルとは別のテーブルに座った。久しぶりに会った従弟妹たちは皆変わっていなくて、元気そうにしていた。 「佳穂(かほ)、結婚式いつだったっけ?」  二歳離れた従弟が聞く。 「再来月の18日」 「あーそうそう。じゃあ納骨の一か月後くらいか」 「うん」  従弟はお茶菓子を手に取ると、口に放り込む。それに続いて、他の従弟妹もお茶菓子に手を付け始めた。配偶者もお茶菓子を食べる。 「あとちょっとだったのにね」 五歳下の従妹が言うと、私は「うん」と静かに言う。あとちょっとで結婚式だったのに、その前に一番楽しみにしてくれていた祖母が亡くなった。命ある者、いずれは逝かねばならないから仕方がないことなのだけど。でも欲を言えば、結婚式まで生きていてほしかった。 「佳穂、お茶飲む?」  夫が言うと、私は「うん」と言ってお茶を淹れてもらう。夫は微笑すると、他の人にもお茶を淹れにいった。 「本当に、真仁(まひと)さんって良い人だよね。佳穂、よく見つけたね」 「本当、私には勿体ない人だよ」  私は皆にお茶を淹れる夫を見ながら、お茶菓子を口に放り込む。糖分が一気に体全体に広がって、少しだけ疲れが取れたような気がした。
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