サウダージ

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 私はそっと、甘えるチョコを撫でながらそう呟くと、夫が悲しい瞳を浮かべた。犬は人間が何を喋っているかは分からない。でも誰かが亡くなったりしたら、雰囲気で分かると思う。実際、チョコは祖母が亡くなってから甘えん坊になったし、祖母が納棺されるまで家にいた時は、閉ざされた祖母の部屋の前で静かに座っていたそうだ。やっぱり分かっていたんだと思う。  チョコがペロペロと首を舐めてくると、私はくすぐったくて笑う。すると「お線香あげる準備できたよ」と母が言いにやって来た。私がチョコから手を離すと、チョコはすぐに母の足元に行って、甘える。私は他の従弟妹と一緒に祖父の部屋に行くと、先代の仏壇の前に置かれた祖母の遺影と遺骨、花束、そして飾りの数々が置かれていた。先に祖父が線香をあげており、合掌している。私たちは列に並んで順番が回って来るのを待つと、順番が回ってきた所で線香をあげた。合掌して、次の人に席を受け渡す。 「これ、小さい頃の佳穂?」  夫が言うと、私は夫の視線の先を見る。そこには私の七五三の写真が飾られていた。 「うわ、え、何で」 「本当だー、佳穂ぶくぶくしてる」  話を聞いていた従妹がそう言うと、私は「恥ずかしい……」と言いながら顔を覆う。 「こっちは希子(きこ)の七五三の写真だ」 「本当だー、懐かしいー」  従妹がそう言うと、「大翔(ひろと)のもある」と従弟の七五三の写真を指差す。従弟が写真の前にやって来ると、「まじか……」と恥ずかしそうに呟いていた。 「お母さんの結婚式の写真もある」 「んー、どれどれ?」  母がチョコを抱きながら写真の前にやって来ると、ウェディングドレス姿の母とタキシードを着た父の写真が飾られていた。 「本当だ、懐かしい」 「私のお母さんとお父さんのもある」 「俺の親父とお母んのもあるわ」
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