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◆◇◆
夜になっても昼に父から言われたことが気になってなかなか寝付けなかった。神社の裏の家は森に囲まれていて、時折ふく風でこの葉が囁く。昔ながらの平屋で、部屋数は多く、私の部屋は西の奥だから、家族も個々で部屋を持っているため、夜には部屋の行き来はない。隣で安心し切ったように、だらけている死神くんは大きなあくびをした。
「もー、寝よーぜ」
「……なんか寝られない」
「意味深だな。……寝かせないで欲しいって?」
「……みっくんは勘違いを通り越して、おめでたすぎる」
「そーかもな。おれは死神だろうと、何だろうと葉羅ちゃんと一緒に居られるとそれでいいから」
「ますます、おめでたいよ……。みっくんはお父さんが言ってたこと、気にならないの?」
布団を首まで引っ張って、じいっと死神くんを見る。薄明かりの中に浮かぶ睫毛が長くて、女の私より繊細な顔をしているのだと改めて思う。
「……少しだけ、昔話をしよう」
「いきなり?」
「まぁ、聞いてよ」
それって昼間、父と話していた「恩」について、関係あるのかな。
畳の匂いと静かな夜に響く死神くんの声は、いつもみたいに適当でも軽くもなかった。
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