トナリの死神くん

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◆◇◆  私は幼い頃から、人以外のものが見えていた。  俗にいう幽霊とか、神様とかいう、非科学的な(たぐ)いのもの。人との違いが曖昧だったため、それとは気づかず、公園でブランコに乗ったり、滑り台を滑ったり、かくれんぼや鬼ごっこをして、無邪気に遊んでいた。黒い煙のような、もわもわとした羽が生えた男の子もその中に居た。  彼とはよく鬼ごっこをして遊んだ。  羽は飛ぶような機能性はなく、彼は普通の男の子となにも変わらなかった。むしろ、少しどんくさくて、よく転んでは傷を作っていた。私はその手当をするために、神社(うち)の授与所へよく引っ張った。親戚のおばちゃんがいつもそこでお守りや破魔矢、絵馬を売っていて、時々お菓子をくれたり、悪いことをして父に怒られた時はそこに逃げ込んでいた。もちろん、友達の男の子が怪我した時も頼りにしていて、消毒してもらったりもしていた。  傷を洗い流す時、染みるのか、ちょっぴり涙ぐむところが可愛くて、手当てが終わればにっこりと笑ってくれた、そんな男の子。  普段はどんくさいのに、遊ぶのに夢中で辺りが暗くなった時は危ないからと、家まで送ってくれたり、手を引いてくれることもあって、優しかった。それにとてもきれいな顔をしていた。記憶の中で美化されているのかもしれないけど。  思えば私のイケメン好きは初恋の時から始まっていたのかも。  それが変わってしまったのは、はっきり思い出せないけれど、小学生二、三年の頃だと思う。  いつものように公園で遊んでいると道に飛び出した同級生が事故に遭った。偶然にも居合わせた人の中に、黒い羽の男の子もいた。  彼はそれを見て、笑っていた。笑っていられる事に、頭が混乱した。  優しい羽の男の子は、私の知っている彼とは違う顔をしていた。  その時、私は、人以外のものは人と同じような見かけをしていても、目的や本性を隠していて、信じてはいけない存在だ、ということ知った。  それは紛れもない、恐怖だ。  交通事故に遭った同級生も羽の生えた男の子も、私以外の人の記憶から消えてしまった。  まるで、最初から存在しなかったかのように。  自分の中に留めておけなかったこのことを、神主の父に打ち明けた。私同様に色々と彼は、触らぬ神に祟り無し、追求すると命を取られるかもしれない。だから、かれらの名を死神(しにがみ)と呼ぶんだよ―――、と、教えてくれた。  体験は記憶に刻まれ、体の輪郭が曖昧なものや見えているけれども触れられないものは、なるべく見えないフリをするようになった。  でも、今回は、見えないフリがとても難しい。  いつも隣で彼が居るから。
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