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「縁結び神社とか、恋みくじとか、商売繁盛とか、健康長寿とか、家内安全とか、このオンボロ神社にキャッチフレーズでもつけないと、潰れるな。これはマジ寄りのマジ」
「アンタ、……勝手に神社の経営方針を考えないでくれる?」
「やーだね」
べぇっと舌を出した仕草もイケメンだからか、愛嬌があるように見えてしまう。
って、違う違う。
「それにさぁ、経営について考えるのは大事だ。人気の神様に来て欲しかったんだろ? おれはいっつも人気だけど? 至る所で、人が死ぬときは呼び出されるからさ」
「……確かに人気の神様にうちに来てほしいって願ったけど……、死神は違うでしょ」
「えーっ、そんなのおれが居る意味ないじゃん。葉羅ちゃんの願い事を叶えるために、ここにいるんだけど、それに、おれはさぁ……」
企んだように笑って、死神は誰もいない境内を見回した。
「おれは死神って呼ばれたくないな?」
顔面偏差値の高い攻撃を受け、目の奥がちかちかする。ふいっと顔を背けると頬が彼の手に捕まった。
「顔、持たないでよっ」
「うーん、……困ったように照れる顔は逆効果かも」
「お願い、恥ずかしいから……」
「……くっ」
怪しい呻き声の後に、死神は一旦、両手で顔を覆った。
「あー、葉羅ちゃんのしぐさでうっかり誤魔化されそうになった。でも、呼び方は譲らないよ? ずっと死神、死神、言われたら、距離が縮まんないじゃん」
「縮める必要ないよ」
縮まると、困る。
「うわっ、冷て。死神のおれより冷たい。塩対応も通り越して、トゲ対応だって、心に刺さった、痛ぇー」
「……トゲ対応……、じゃあ」
「ん?」
「じゃあ、カミサン」
「それ……、熟年夫婦の夫が妻を呼ぶときの呼び方じゃね?」
「知らないよ。……じゃあ、カミくんは?」
「やだよ。カニみたい」
「もっと短くして、みっくん、とか?」
いや、このどす黒くて、神社に似つかわしくない生き物にそんな軽い名前で呼んでいいの? 仮にも死を司る神様だよね……、今すぐやっぱり許さないとか何とか言われて、本性を現しちゃったりしない?
「やっぱり、やめ「いーや、みっくんがいいな」
「……でも、死神をみっくんって、馴れ馴れしくない?」
死神くんは首を振って、私をまっすぐ見た。人に死を運ぶとは考えられないぐらい、澄んだ瞳。顔面の強さに加え、満面の笑みが向く。
「葉羅ちゃんが呼んでくれるなら、大歓迎」
本当、困る。
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