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すると不意に例の扉がカチャリと開き、中から一人の女性が顔を出した。
歳は三十路辺りだろうか――流伊とそう変わらないように見える。
扁桃形のくっきりとした大きな瞳に、通った鼻梁と綺麗に紅の引かれた唇。瓜実顔も相まって、正しく美人という部類に入るだろう。
「綺麗……」
思わずポツリと零す。
流伊と横に並んだら、きっとそれは似合いだろう。そう思った次の瞬間、チクリと胸の奥に鋭い痛みが迸った。
理由など、とうに自覚している。――好きだからだ。彼のことが。それも、もうどうしようもなく。愛している、という言葉でさえ最早、芽衣子にとっては生温く感じる。
流伊と初めて出逢ったのは、親同士の決めた見合いの場だった。所謂、政略結婚を前提にした婚約。当然愛など無いに等しかった。
事実、あの頃の彼は終始冷たかったし、例え芽衣子の継父母の前であっても、にこりともしなかった。
結婚してもこのままずっと、心を開いてくれないつもりなのだろうか。しかし所詮は政略結婚。しょうが無いのかもしれない。――そう諦めていた。
しかし、あの日――彼にその緑が好きだと思い切って伝えたあの日、転機が訪れた。
少しずつだが、自分のことについて話してくれるようになったのだ。
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