花園に秘す

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 ***  その緑の瞳から予想はついていたが、流伊(るい)所謂(いわゆる)混血(ハーフ)で、純粋な日本人ではない。  生まれも母の祖国である英国(イギリス)で、彼女が他界したことをきっかけに、父に手を引かれ初めて日本へ渡ってきたのだという。  まだ幼かった彼にとって、目に映る物は全てが新鮮で輝いて見えたことだろう。流伊(るい)は特に、お弾きや面子(めんこ)を気に入り夢中になっていたと、少し照れ臭そうに教えてくれた。  しかしそんな平和な日々は、長くは続かなかった。  同年代の子供は皆、小学校へと通い始めるようになったが、流伊はそれを許されなかった。理由などただ一つ――彼が日本人ではないから。  だが、まだ幼い流伊がそんな事情を()み取れるはずもなく、彼は待ち続けた。いつかきっと通うことが許される。今年は駄目でも来年はきっと。来年が駄目でも再来年はきっと。  しかし待てども待てども、そんな日はやって来なかった。  やがて、近所の子供たちから嫌がらせを受けるようになった。大人たちからも、白い目で見られるようになった。  初めは"外人"、"野蛮人"と(ののし)られるだけだったものも、徐々に尾鰭(おひれ)がついたのか、"目が合ったら呪い殺される"だったり、(ひど)いものだと"ペルリ(黒船で知られるペリー提督)の末裔(まつえい)"呼ばわりされることもあった。  流伊は思わず(わら)った。 ――馬鹿(ばか)かお前ら。ペルリは米国(アメリカ)人だっつーの!  思えばそれがきっかけだったのだろう。彼の生活は見る間に(すさ)んでいった。  
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