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そして月日が流れ、舞い込んできたのが、芽衣子との見合いの話だったのだという。
皮肉なことに、流伊の父は純粋な日本男児であり、しかも貿易会社の役員なので流伊自身、金には全く困っていない。寧ろ有り余っているくらいだ。
あぁ分かったぞ、と流伊はほくそ笑んだ。
大方、資金援助が目当てだろう。
芽衣子の里家――篠宮家は旧華族といった財閥出身の家柄ではなく、所謂"成金"と呼ばれる出世御家。小規模ながら、独自に株式会社を経営している。
しかし近頃、同業社の乱立が相次ぎ資金調達に苦労しているようだと、有能執事がさらりと零していた。
それを聞いた流伊は、フンと鼻を鳴らした。
――くれてやる。金など幾らでも。
しかし、この心は別だ。例え跪き靴を舐めたとしても、決して委ねてやるものか。――そう思っていた。
否、違う。そういう意味ではない。彼女は来てそうそう靴を舐めたわけではなく、そもそも何もしなかった。
ただじっと、陽だまりの如くそこにあって、流伊の言葉を待ち続けた。
そんな彼女の姿が、幼い頃、小学校へ通うことを心待ちにしていた自分と重なり、思わず視線を逸らす。
しかし良心に、流石にこれ以上人様を待たせるのは常識ではないと警鐘を鳴らされ、流伊は仕方なしに目の前の、十以上も歳若い女性に尋ねた。
君が望む言葉は何だ、と。
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