花園に秘す

17/30

102人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
 そこではたと何かに気付いたのか、杏璃(あんり)はポンと手を打った。 「あ、いけない。あの子に芽衣子(めいこ)ちゃんのこと、連れてきてって言われたんだったわ。さぁこっちよ、来て来て」  そして彼女はやや強引に芽衣子の背を押し出すと、真っ直ぐに、あの木目の扉の前まで(いざな)ったのだった。 「この先はテラス席になってるの。そこで流伊(るい)が、surprise(サプライズ)を用意してくれているはずよ」  (よど)みのない美しい発音、合わせてその言葉にドキリとして彼女の顔を見上げると、杏璃はこれまた綺麗に片目を(つぶ)ってみせた。  芽衣子(めいこ)は、そっとドアノブを握る。心持ちは、さながら冒険者だ。  深呼吸を一度した後、ゆっくりと扉を開いた。  すると、カチャリ……と音が鳴ったと同時に、サァ……と柔らかな風が一塵(いちじん)吹き、両サイドに流した黒髪が揺れる。 「わぁ……!」  目の前に広がる景色に目を奪われた芽衣子は、そのまま吸い寄せられるようにテラス席の間を()っていく。  そこはまるで、花園だった。様々な種類の色とりどりの花が、生い茂る緑の植物に彩りを与えるように咲き誇っている。  霞草(カスミソウ)やオオイヌノフグリ、白詰草(シロツメクサ)など芽衣子の好きな花もある。 「気に入ってくれたか?」  ふと頭上から降ってきた声音に、はっとして顔を上げると、愛しい婚約者の姿。――を、認めるより先に後ろから、ふんわりと包み込まれた。  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加