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「流伊さん……」
芽衣子は頬を薄赤く染めつつも、ふわりと微笑むと、程よく引き締まったその腕にジャケット越しにそっと触れる。
「うん……?」
すると彼は心底可愛いというように、芽衣子の頬にチュッ……と軽く口付けを落とす。
そんな彼に益々顔を赤くしながらも、きちんと言っておかねばと、芽衣子は首を捻ってその顏を仰ぎ見た。
「ありがとうございます、流伊さん。こんな素敵な誕生日の贈り物をくださって……」
しかし彼は、軽くかぶりを振って――。
「プレゼントはこれじゃあない」
「え?……違うのですか?」
では一体何なのだろうと思っていると、流伊がどこか思案するように瞳を上向かせ、「まぁ、君がそんなにも気に入ったのなら、この庭園を買い取っても構わないが……」ととんでもないことを告げたので、芽衣子は慌てて両手をぶんぶんと振り回す。
「ご、ごめんなさい、違うんです……っ!そういう意味で言ったのではなく……」
「なんだ、そうなのか?」
ぱちくりと長い睫毛を瞬いた彼に、芽衣子は必死にこくこくと頷く。
流伊は、全くもって金遣いは荒くないのだが、どうしたわけか芽衣子のこととなるといとも容易く財布の口を緩めてしまう、悪い癖がある。
これには少し困ったことだと、顬を押さえていると、他方から「そうに決まってるでしょ!」と澄んだ高い声音が飛んできた。
芽衣子ははたと我に返って、流伊の腕の中からすり抜ける。
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