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一体どうしたのだろう、と思う間もなく、後ろから項を指先で緩く撫でられ、芽衣子は堪らず「ひぁ……っ」と声を上げる。
――る、流伊さん……っ!?
彼は一体何を考えているのかと、顔を赤くも青くもさせていると、右肩越しに低い声音が耳朶を打った。
「悪いが……彼女と二人きりにしてくれないか、姉さん。どうせもう十分、僕が見ていない間に喋り倒したのだろう?」
「喋り倒したって、失礼ね!やっぱりあんたってグ――コホン。……なんでもないわ。そうやって威嚇するのは勝手だけど、芽衣子ちゃんのこと、あんまり疲れさせちゃ駄目よ。それでは、ごゆっくりどうぞ」
やはりそう一口に捲し立てると、杏璃は優雅に腰を折ってから去っていった。
その唇が、"ご馳走様"と囁いてどこか愉しげに弧を描いたことを、芽衣子は勿論気付かなかった。
杏璃が完全に去り、扉が閉まったのを確認すると、流伊は改めてソファーに体重を預けて尋ねた。
「さて、芽衣子。何から食べたい?」
なんでも構わないぞ、と皿とフォークを美しく携える彼に、芽衣子はえぇと……と目の前のケーキスタンドを注意深く吟味する。
「これは……確か、サンドウィッチ……というものですよね。あの、この上の二段にある食べ物は、なんと言う名前なのですか?」
芽衣子の指差す先――スタンドの中段には、ふんわりと狐色に膨らんだ一口大の菓子が、上段には、生地が何層にも重ねられ、軽く砂糖がまぶされた菓子が数個ずつ並んでいる。
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