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しかし彼は怒るどころか、益々愉しげに更に笑みを深め――。
「"立派な淑女"が、これくらいのことで動揺するのか?」
「うっ……」
言葉にならず押し黙った芽衣子を見て、それ見たことかと意地悪くほくそ笑むが、それは一瞬のこと。
「……子供扱いなどするものか」
キュッと眉根を寄せどこか愁いを帯びた瞳を向けると、薄く開きかけた芽衣子の桜色の唇に、そっと人差し指を押し当てた。
「本当は今すぐ、ここに口付けたいというのに……」
ぶわっと紅潮した頬の熱は、もう上は脳天まで、下は爪先まで駆け巡って達してしまうのではないだろうか。
それほどまでに、熱烈。静かな口調だからこそ、余計に心深くまで沁み渡る。
言葉も色も何もかも、纏うものが美しくて止まなくて――。
「あ……」
クラリ、と微かによろけた芽衣子。
「……っと」
しかしその腰を瞬時に支えると、彼はくすりと微笑を湛えたそのままに、グッと引き寄せた。
まさか、と瞳を見開く。
――今度こそ本当に……本当の接吻……っ!?
芽衣子はギュッと固く瞼を下ろす。
帝都の往来なのにどうしてだとか、もうそんなことは脳裏を過る間もなかった。
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