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朝はアルザイとセリス、ほぼ同時に目を覚ました。
セリスは寝台の端で丸まって寝ていて、アルザイは中央に堂々と身を横たえていた。二人の履いていたサンダルは寝台の横にどう見ても投げた状態でてんでばらばらにひっくり返っていた。
「よく寝た」
アルザイの満ち足りた声に、セリスの意識は微睡みから覚醒にいっぺんに到達して、跳ね起きる。
「おはようございますっ」
「おはよう。良い朝だな」
ごろりと寝返りを打つように横向きになり、アルザイはセリスに向かって微笑む。
「さて。ラムウィンドスの反応が見ものだな」
「反応……?」
何故いきなりその名が、とセリスは警戒をあらわにした。
アルザイは自分の黒髪を指でくしゃくしゃに遊びながら、言った。
「姫はあいつをいささか誤解しているようだが。あいつは自分の女に手を出されて黙っているほど間抜けじゃない。どうしてアーネストを遠ざけたと思う。血を見るからだ」
どこにどう食いつけばいいのかわからない。平易なのに難しいことを言われたような気がする。
(自分の女に手を出されて……?)
「誰が誰の女で、誰が誰に手を出されたんです?」
これはおそらく、明らかにしてはいけないこと。
それでも、しらばっくれるしかないと、セリスは破れかぶれの謎の強気を発揮して、突っぱねようとする。
一方のアルザイはとえいば、にやにや笑いが止まらない。
前夜から、アルザイには男だ女だと事あるごとに言われて貞操云々と言われもしたが、自分としてはあくまで男性として侍っている心積りであった。それこそゼファードであり、ラムウィンドスの代わりのつもりで。
「それを俺に言わせて良いのか? そのままラムウィンドスにも言うぞ。戦争が起きる」
「アルザイ様、滅多なことを仰らないでください。こんなつまらないことで戦争などしている場合ではありません」
「つまらなくはない。姫は『幸福の姫君』であり、男を覇王へと導く女だ。姫をめぐって争う男は、この先も数多いるだろう」
「ですが予言は」
(イシス様のものであって、わたしは偽物です)
言えない言葉を飲み込む。偽物であっても、喧伝されてしまっている以上「対外的にはそういうこと」になっているのだ。嘘か本当かなど、この際大きな問題ではない。
にやにやと笑っていたアルザイは、不意に寝台から身を起こして絨毯の上に降り立った。
伸びやかに体を腕を突き上げてから、セリスを振り返った。
「それにつけても、姫は男の装いも似合うが、このままでは自分が女であることを忘れてしまいそうだな。今日の休暇は女装で過ごせ。それがいい」
「女装ですか? しかし王宮で、わたしが女性であることが露見してしまうわけには」
(あえて身分を隠してきたのに、いたずらに問題を起こすわけには)
セリスはその意味で言ったが、アルザイは決然として言った。
「街に出てしまえばいい。ちょうどいい、アスランディア神殿にも寄ろう。アーネストが元気にしているか、姫も気になるだろ?」
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