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肩を並べて寄り添って歩く二人を、面白そうに見つめている青年がいた。
「すごい、銀髪だ。あれって噂に聞く月の国の王族筋の姫かな? ちょっと人間とは思えないね。女神が地上に降りて来たみたい」
埃っぽい旅装に身を包み、日差しを避けるように頭部から首まで布で覆っているが、炎のような赤毛が額にこぼれている。
「隣の男、相当な手練れのようだ」
似たり寄ったりの恰好で並び立ったいま一人が、低い声で答える。
「そりゃそうでしょ。姫君の護衛が弱くてどうするの。今日はこの後、大きな隊商が到着するって話で、ずいぶん賑わっているわけだし。街が落ち着かない。あの二人もそれが目当てだとして、どこかで高みの見物を決め込むつもりなんじゃないの? その前に接触しないと!」
「イグニス、面倒事は」
「気になるんだよ、あの年頃の『お姫様』がさ。我が主と、見た目は同じくらいだ。追い詰めてみたいし、怖がらせて泣かせてみたいよ。そこからどういう判断を下すのか。我が主とはどう違うのか」
喉を鳴らして笑う赤毛に、連れの男は吐息する。
「やめておけ」
「もちろん、騒ぎには気をつける。だけど、月の王族なんて、この先お目にかかれるかどうかわからないんだ。絶対に話してみたい。何者か知りたい。ひとまず、声をかけるだけだ。……たったそれだけで面倒が起きてしまったら、それは運が悪いというだけだ。私ではなく、ラスカリスの」
きわめて愉快そうに言うと、赤毛の旅人は注目を浴びている二人の後に続いた。
悪意など欠片もなさそうな紺碧の瞳を、鮮やかに輝かせながら。
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