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「アーネスト! セリスから離れて、よくわからない仕事を引き受けて、ついでに私のこともだなんて……。あなた、何を考えているの?」
さっさと廊下を進んで王宮を出ようとするアーネストに対し、ライアは必死に追いすがった。
「何をって。姫様をここに届けた時点でオレの役目は終わっとるからね。これから月と戦争するだろう国の軍部に志願するつもりは無い。それでいてなるべく王宮の近くにいるなら、陛下の指示には従っておいた方が無難やろ。ライア様に関しては、そうやなぁ……。ついでやな」
(正直者……ッ)
甘やかな感情がそこにあるとは、期待などしていなかった。
それにしても、味気ない。
ライアは思わずうなだれそうになった。そのとき、アーネストが何気なく続けた。
「ライア様の扱い、陛下にはあれが限界や。どうせ家臣団には『殺せ』って突き上げくらっとるやろうし。王宮にいたらそれこそ消されるかもしれんけど、大っぴらには庇いにくい……。はじめっからオレがライア様の護衛につく算段のくせして、オッサン素直やないなぁ。あほくさ」
(ああ、そうか。黒鷲側には、私を生かしておく利点が全くない……)
翻って自分の父親ならどうするかと考えれば、おそらく暗殺者の一味など即座に殺すだろう。生かしておいて情報を搾り取るなら拷問にかける。
所詮ライアは捨て駒扱いされた王女、人質の価値はない。
王宮に置いて遇すれば、それこそ家臣団の神経を逆なでするに違いない。
「よくわかりました……」
責任を追及せず、命を奪いもせず自由の身にするというのは、破格の待遇なのだ。
なぜライアに対して、アルザイがそんな決断を下したかといえば、セリスの存在が関係しているように思う。
(セリスはあの男の泣き所なのかしら……?)
そんなにセリスに選ばれて「覇王」になりたいのだろうか。
そもそもアーネストは、こんなに簡単にセリスを諦めて良いのだろうか。
思いは尽きないのだが、それも命があればこそ。
なぜかアーネストはしばらくそばにいてくれると言うし、素直ではない王は、安全だという神殿にライアを匿ってくれるらしい。
幸運に感謝しつつ、ライアはアーネストとともにアスランディア神殿に向かったのだが──
待ち構えていた紫の目をした神官に、ごく当然のように無理難題をふっかけられる運びとなるのであった。
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