紫の目の神官が言うには

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紫の目の神官が言うには

 沈黙につぐ、沈黙。    ライアとアーネストがアスランディア神殿に滞在をはじめて、十日が過ぎた夜のこと。  簡易の机に粗末な椅子、低い寝台に、床には古ぼけて擦り切れた絨毯。必要最小限の備え付け家具の置かれた、神殿内の一室で、二人は向かい合っていた。  灯りは机の上に置かれた燭台一つ。  この晩、ライアは昼の間は別行動となっているアーネストを私室として貸し与えられている部屋に呼び寄せ、相談事を持ちかけた。  その結果が、この耳の痛くなるような沈黙。  寝台に腰かけていたアーネストは完全に頭を抱えてしまっている。文字通り、掌で額をおさえてうなだれており、表情を伺うこともできない。  椅子に腰かけていたライアは、ひたすら返事待ちの状態だった。  悪いことをしてしまったな、という思いはあったが、言ったことを言わなかったことにはできない。もしかしたらアーネストは「冗談なの、忘れて」と言えば喜んで忘れてくれるかもしれないが……。 (言ってみようかな)  魔が差した。  苦悩するアーネストを見ているのが忍びなくて、本当に一瞬魔が差した。 「忘れて」  口の中が乾ききっていて、掠れた声しか出なかった。もっとさりげなく言いたかったのに、失敗した。  案の定、溜息とともに顔を上げたアーネストは、およそライアが今まで見たこともないくらい最低最悪に剣呑な顔をしていた。    「アホ」  とてもシンプルに罵られて終わった。本当に何もかも終わった、と思った。  出会って以来、危うくも紡いできた友情や連帯感のようなものを裏切り、取り返しのつかないことをしてしまった。  事の発端は、ライアの一言。  やむにやまれぬ事情があるとはいえ、アーネストに無理を言ってしまったのである。  ──何も考えずに、ひと思いに私を抱いて欲しいの。
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