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ライアに割り当てられた部屋は、ライアが昨日訪れたアーネストの部屋と同じく、ほとんど物の無い粗末なものだった。王女とはいえ、砂漠の旅で野宿も経験していたので、文句を言うこともなかったが、光り輝くばかりの月の姫を招き入れて良いのかは躊躇した。しかし本人が何も気にしていない様子なので、椅子をすすめてライア自身は寝台に腰をおろした。
改めて向かい合って、しげしげとセリスの麗姿を見つめる。
「セリス……すごく綺麗ね。はじめから、堂々としていて変な度胸はあるなと思っていたけど、そうして装えばあなたの素性にも頷けるわ」
「ライア様こそ。今日もお綺麗です。本当は気安く話せる御方ではないと感じます。……僕のこの服装は、アルザイ様の遊びです。女装なんかして、誰かに見られたら良くないと思うんですが。髪も。わかる方にはわかってしまいますよね、月の人間だと」
セリスは本気で困った顔をして、少しだけ視線を泳がせている。
その悩まし気な横顔を見るとはなしに見ていたライアは、ふと思いついたことを口にした。
「それでも遊びに付き合っているのはどうして? アルザイ様がお喜びになるから? それとも、見せたい相手でもいるの?」
「え……」
ライアの問いかけに、セリスは絶句して、色白の頬を赤く染めてしまった。
予想外なほどに、目覚ましい反応だった。
「やだ、図星? 見せたい相手はアルザイ様、じゃないわよね? あら? ……え?」
みるみる間に耳まで赤くして、口をぱくぱくと動かしてから、セリスはその場で身を乗り出して言った。
「あの……っ。そういうつもりではなかったんです。あのひと、今は街の外に仕事で出ていていないみたいだし。ばったり会うこともないだろうし。でもなんていうか、僕は最近ろくに顔も洗わない、髪に櫛も通さないような姿ばかり見られていたみたいで。あのひとはいつだって乱れていることなんかないのに。本当はこ、こういう女の人みたいな格好ちょっとやだなって思っていたけど、いやでもたまには会いたいし、見て欲しいだなんて……はぐっ」
猛烈な早口の末に、最終的に舌を噛んだらしく、黙った。
ライアはその様子を、まさしく呆気にとられて見てしまった。
(この綺麗なお姫様は、ひとりで、なんの話をしているの?)
少なくとも、「見せたい」話題の相手はアーネストではないだろう。そもそもここ数日、そんなだらしがなく過ごしていたらしいセリスと、顔を合わせてはいないはずだ。
では……?
「あなた、まさかあの太陽の『野蛮人』に見てほしいの?」
「ライア様!!」
立ち上がったセリスが、全力でそれ以上の言葉を阻止しようとしてきた。しかし、言ってしまった後。
セリスのこの動揺は普通ではないと思いつつ、どうにも解せずにライアは言い募ってしまう。
「あの男のこと、好きなの? ラムウィンドス?」
その名前を聞いた瞬間、セリスは慌てた様子で歩き出そうとして、椅子の脚に足が絡んで転んでしまった。すぐには立ち上がらない。べしゃっと床に崩れ落ちた姿勢のまま、うなだれている。何やら悔しそうに唇を引き結んでいるが、顔は真っ赤のままだ。
「どこが良いの? たしかに謹厳そうだし端正な顔はしていたけれど、単純に美形でいえばアーネストに並ぶ人はいないと思うし……。アルザイ様もあなたにはものすごく甘いわよね。あ、そうよそんな恰好をさせるくらいだもの。アルザイ様から口説かれたりしていないの?」
少々下衆いかなと思いつつ探りを入れると、セリスは顔を上げてキッと潤んだ目で睨んできた。
「アルザイ様はたまにそういうこと言いますけど、からかっているだけです。昨日も飲みながら男だ女だと言っていましたが、最終的には枕ですよ」
「枕?」
ごく単純に、単語のみの説明が理解の範疇を越えていたので、聞き返した。
「枕です。僕を枕替わりにして寝てしまいました」
「つまり、アルザイ様と寝所をともにしたと?」
「お酒を召し上がってらして、酔っ払って乗ってきて。重くてどかせられなかったからそのまま僕も寝ました」
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