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ライアは真顔で、セリスの赤く染まった顔をまじまじと見つめた。
「ごめんなさい、それ含むところが何もなくて……。つまりそのままの話って意味?」
「何を含むんですか?」
話しているうちに冷静になってきたのか、声は平静に戻りつつある。その様子を大変不思議な気持ちで眺めてから、ライアは話を戻した。
「どう言えば伝わるのかわからないのだけど……。男と女で寝所を共にして、『枕をしていました』だなんて。その状況、多分誰にも理解されないと思うの。セリス、それをラムウィンドスって人に言える?」
「ラ……に言ったら、たぶん呆れられると思います……。従者が主と寝てしまうなんてだらしないって。眠くても姫は床だ、と。いや、ラムウィンドスは僕に対しても臣下の振る舞いをするから、そこまで言わないかな。でも、僕がアルザイ様に失礼をしたら怒るような……。今はあのひとはアルザイ様の配下だし」
根本的に。
話がかみ合っていない。
なぜこんな齟齬が生じるのかライアには理解できないのだが、昨晩アーネストに寝物語をされたときに、セリスの奇妙な育ちについては多少聞いていた。
──あのひとは、男っちゅうものを知らないで育っとるからね。年齢は大人だし、口ではわかったようなこと言うけど、ズレとる。
(寝物語というか……、夜通しこんこんと説教されたんですけどねー! 私は私で枕扱いすらされずに体に直接触れられることもなく……)
――こういう時はな。あんまり見られてると、オレが恥ずかしいんや
そんなことを言われて、抱いてくれるのかと期待したのに、気が変わったのか説教が始まってしまったのだ。いま思い出しても、アーネストに対して(許しがたい)という思いが沸いてしまうライアである。
その持て余し気味の納得いかない気持ちで、セリスをいじめたくなってしまった。
「わかった。想像してみて欲しいんだけど。ラムウィンドスという人に、同じことされたらどうする? つまり、夜通し一緒の寝台で、枕だなんだと理由をつけてその腕に抱かれたら」
「同じ……」
きょとんと聞き返してきたセリスであるが、沈黙のうちにライアの言った通りの状況に想像を巡らせたらしい。
顔が再び真っ赤に染まって、火を吹く。
本人も自覚があるのか、両頬に両手をあてて、冷ますようにぱたぱたと叩きながら言った。
「無理です無理……! だってラムウィンドス、口づけしてくるし……! ひとの気持ちも聞かないで、無理やりしたこともあるんですよ……!? 一晩一緒になんて、無理です……!!」
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