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「お話し中失礼。セリスに関しては、アーネストが食らいついていくところまでは見ました。戻って来ない理由はわからないけど、きっちり追跡はしていると思います。それと、攫った人にはあまり脅威は感じなかったんですよね。セリスも覚悟の上で攫われたように見えました」
二人のやりとりを見守っていたライアが、見かねて口を出した。
ライアに目を向けて、しずかに耳を傾けていたラムウィンドスは小さく頷いた。
「貴重な証言をありがとうございます。ライア様はよほど使える──」
言いかけて、わざとらしくアルザイの腕を掴み、顔をのぞきこむ仕草をした。
「別にあなたに、使えない男だなんて言ってないですよ」
「思いっきり俺の前で俺の目を見て言いやがったな」
肩をそびやかして、ラムウィンドスは黙ったままのイグニスに目を向けた。
「俺の顔に何かついていますか」
「目と耳と鼻と口」
「ああ、それはそれは。普段『無口』とよく言われるんですが、ありましたか」
極めて感動の薄い調子で言ったラムウィンドスに、イグニスは唇に笑みを湛えて薄く笑った。
「今のがあなたの『冗談』か。なるほど、ここは笑うところか」
そのままゆったりとした仕草で、部屋の中央に置かれた長椅子に足を向け、腰かける。
「結構、落ち着いているな。冷静だ。そういう話し方をするのか。私はあいつと話したことはないが、似ているんだろうか」
しどけなく背もたれに背を預け足を組み、イグニスはラムウィンドスに視線を流す。
黙して受け、軽口はない。
最前までとは違うラムウィンドスの慎重な姿勢に、「なるほど」と呟いて口の端をつりあげた。卓にあった陶器の盃を取り、傾ける。赤い筋が唇の端から垂れて、盃を離すと手の甲で拭った。
「手が震える。それほど血を失った覚えはないんだが」
「射たれたのは、連絡橋の上だとか。通過したときに、あなたの姿も見ました。この男や姫たちと一緒にいましたね」
イグニスは答えず、盃の中をのぞきこんだ。それから、アルザイへと視線を向ける。
「その男が誰かは、私はまだ名乗りを受けていない。この後、『まさかあなたが、あの黒鷲殿ですか』とすごいめぐり合わせに驚く手筈だから、今この場で明かす必要はない。まだ出会っていない体で話を進めたいんだ」
「そういう、食えない男ごっこに付き合わされるのは御免被ります。回りくどい話をしている時間はさすがにない」
「さて、どの口がそんなつれないことを言うんだ」
イグニスはラムウィンドスを軽く睨みつける。
その時、ドアの外の兵士から室内に声がかけられた。
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