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秘められぬ思い
陽が落ちるにつれ、篝火の輝きが増す。
半円形の野外劇場を余さず照らし出すべく焚かれた炎から、いくつもの火の粉が舞い上がり、ときに風に吹かれて宴をはじめた男たちの間を流れてゆく。
少年は三々五々はじまった酒食の集まりに混ざることなく、劇場内を歩いていた。
歩みは存外に早く、細く束ねた長い黒髪が時折背ではねる。
(出口は一つ。見張りがついて人の出入りを見ている)
鉢の底にあたる地面が主たる宴会場となっているが、客席の傾斜は緩く、そちらで飲み食いをしている者もいる。
広い舞台部分には荷を積んだラクダが並び、客席に面した神殿のような石造りの門や円柱の向こう側、奥はすべて土嚢が積まれて塞がれているようだ。野盗の侵入を防ぐためというが、隊商の動きを制限したいというのが本音だろう。
(かなり警戒しているな)
隊商の長であるセキは、マズバルの司令官に連れ出されて長いこと戻って来ない。
着いて早々の呼びつけであったが、マズバルの君主が召したのだとすれば、そのままそちらで宴席に招かれている可能性もあるだろう。隊商にとっての長は重要人物であるが、長旅には不慮の事態も想定されており、長の代わりを務められる者も数人いる。残された者に大きな混乱はない。
腰を落ち着けることなく、皆の間を歩く少年を見止めて、声をかける男がいる。
少年はそれに笑って答えて、まるでよそに呼ばれているようなそぶりでその場を去った。
体を休めたい気持ちはあったが、酒は口にしたくない。
人が多い場所で、不意に因縁をつけられて喧嘩に持ち込まれるのも分が悪い。
味方がいないわけではない。
とはいえ、今は誰も寄せ付けたくない。
(兄上派の連中は、ここで必ず、俺に仕掛けて来る)
頬に炎の煌きを受ける。
篝火は朝まで焚かれて人々の動きを照らし出すだろう。
陽が上り、火が絶やされるその時まで、何事もなく過ごせるとはどうしても思えなかった。
それは、常に肌を刺すように感じる視線のせい。
どこかから、見ている者がいる。
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