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深い森の奥で
わたしの手足は、どうしてこうも頼りないのだろう。
このところ、思い知ってばかりだ。
木肌に触れ、草をかき分けるだけでたやすく裂けてしまうやわらかな掌。小枝を踏みしめただけで痛む足の裏。
(剣をふるう兵士のように)
全力で撃ち込まれた剣を力づくで押し返したラムウィンドスの姿が、目裏にいつまでも在る。消えない。
人間に、あれほどの強靭さを見たのは初めてだった。誰に何と説明されるよりもそれは雄弁で、思い描くたびに胸がいっぱいになり、痛む。
あの揺るぎない強さには、たとえこの先どんな生き方をしても決して到達しえない。わかってしまう。
いつも泰然として、自分は人ではなくただの鋼、姫の守り手に過ぎない。そんな顔をしているのに。
彼はどうしようもなく、「選ばれた人間」だ。「幸福の姫君」よりもずっと。
ずっと──
何度も転びそうになりながら、セリスは懸命に駆けた。
駆けているのだ。追いつかない。追いつけるとはもとより期待していなかったが、あまりにも不甲斐ない。何もかもが弱すぎる。
手足がじくじくと痛むせいだろうか、思考はどんどん内を向き、とめどなく落ちていく。それでも、止まれない。
たとえ追いつけなくても、これ以上離れたくない。
圧倒的な存在に対して、それはどうしても譲れない、強烈な憧れだった。叶わずとも、思うだけならば。願うだけならば。
足が前に出るうちは、行かなければ。
その時、強く肩を引かれる。
トン、と胸の中で何かが跳ねた。否応なく、望んでしまう。
首をひねって確認する。
そこに、期待した人の姿はなかった。
ドレスが飛び出た木の枝に引っかかってしまったようだった。外さなければと思うのだが、よく見えずにうまくいかない。
「もう少しなのに……」
思わず声にして呟いてから、セリスは違和感を覚え、動きを止めた。
(視線?)
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