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重い。
時間が、間延びした。
ゆっくり辺りを見回す。
木の葉がさやめいた。
セリスの体の向きに対してまさに正面の木立の間に、立ち尽くしているラムウィンドスの姿があった。
眼鏡の奥の瞳は見開かれているのに、その視線はセリスをすり抜けてどこか遠くを見ていた。
「……ラムウィンドス?」
声をかけると、瞬きひとつ。
何事もなかったように、そっけない調子で口を開いた。
「なんだ、姫か」
「わたしですみませんでした」
怒られたわけではないのに、何やら猛烈に申し訳ないような情けないような気持ちに襲われた。
ラムウィンドスはセリスの落ち込みなど意に介した様子もない。首を傾げて近づいてきた。
「何を謝られているのかよくわからない。そもそも、そこで何をしている?」
「引っかかっています」
ラムウィンドスはセリスの真正面に立つと、無造作に手を伸ばしてきた。セリスは身体を固くして息を止めた。影が顔にかかる。一瞬だけ覆いかぶさられるような形になったが、すぐに影はひいた。肩のあたりの突っ張った感覚は消えていた。セリスはほっと息を吐き出した。
「……わたしですみませんでした」
「まだ何も言っていない」
「さっき、『なんだ』と。他の方と勘違いしたのでそしょう? 兄さまなら今頃お茶会の席でアルザイ様のお相手をなさっていると思います」
「ゼファード殿下……? ああ。まぁ、そうだな。その銀の髪を見ると、ときどき思い出すな。あいつが髪を染める前のこと。十年前だから、いまの姫と同じくらいの年頃だったな」
(現在兄さまは二十三歳で、わたしは十五歳なので、十年前の兄さまよりもいまのわたしの方が大人です!)
よほど、言おうかと思った。
一度「ガキ」呼ばわりされたときから、ラムウィンドスには実年齢よりずいぶん幼く見られている気がしてならないのだ。とはいえ、いまはラムウィンドスの話の続きが気になっている。
「十年前の兄さまとわたしは似ていますか?」
ラムウィンドスは顎に手をあて、真剣にセリスを見つめながら、考え込んだ。あまりにもまっすぐに見てくるので、いたたまれない気持ちになってうつむいてしまう。
ややして、ラムウィンドスが「……似ている、かもしれない」と彼らしくない曖昧な調子で呟いた。
「どのへんが、ですか」
「……髪が」
それは王家の証なのだから、同じで当たり前なのだ。そう思ってから、ふとセリスは疑問に思った。ゼファードは、なぜ髪を染めるのだろう、と。緑色に染めているという話は聞いていたが、実際に会ったらあまりにも違和感がなかったので、似合うからそうしているのだろうと思っていた。
しかし、ことあるごとに王族の務めについて説いてくるゼファードに、自ら「王家の証」を放棄するかのような態度は似つかわしくない。
(ラムウィンドスは、何か知っている? 聞いてみるべき?)
いけない、と思い直した。それは本人に聞くべきこと。
代わりに、ラムウィンドスには別の話をした。
「十年前、ラムウィンドスはどんな子どもだったんですか」
「俺は子どもだったことはない」
(無駄に強がられたような)
大人気ない態度にセリスは眩暈を覚えたが、質問を変えてみることにした。
「十年前のラムウィンドスは何歳だったんですか」
「十四歳」
「いまのわたしより子どもですね」
元が元なので、表面上あまり変わったようには見えなかったが、ラムウィンドスは明らかに表情を固くした。少しだけ申し訳ない気持ちになった。
どうも、子ども時代の話をするのが苦手らしい。セリスは浅くため息を吐いた。話に花を咲かせるのは、実に難しい。ここらで諦めるべきか。セリスが次の手を考えている間に、ラムウィンドスは訥々と語り出した。
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