その夜の出来事

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「何をするの……っ」 「俺の女に、俺が何をしようが自由だ」  半ば予想通りの答えに、かっとなって手が出たが、アルザイを叩く前に手首を掴まれておさえられた。力が強い。逃げられない、抵抗も意味をなさない。  このまま。  衣服をはぎ取られて、辱められて、アルザイの思惑通りに『妻』となる為に、ここまで来たわけではないのに。  瞳から猛烈な怒りを迸らせて、ライアは叫んだ。 「私に何かしたら、月の王が黙ってないわよ……!!」  妙な沈黙があった。せせら笑うか、激高するかと思っていたが、アルザイの反応はどちらでもなかった。  何故か非常に怪訝そうに眉を寄せて、ライアを見下ろしていた。  なまじ表情が豊かなだけに、その困惑ぶりが実によく伝わってきた。 「な……なによ」 「いや。ゼファードがなぁ……と」  独り言のように呟き、ライアの上から立ち上がる。  何事もなかったように、続きの間に至る布の下がった戸口の方へ顔を向けた。 「おい、いるのはわかってるぞ。見えた」  無言で布を片手で除けて入ってきたのは、白金色の髪の青年だった。  アルザイをちらりと見てから、ライアに目を向ける。少し視線を外して、尋ねられた。 「ライア様、お怪我は」  衣服が乱れているのに気づいて、すばやく身体を起こして膝で立ち、肩を両手で抱く。そのとき、アルザイが肩に乗せていた赤い布を無造作に投げつけてきた。 「ちょっと……!」 (乱暴な)  抗議したつもりであったが、アルザイの熱を帯びた布は温かく、大きく、包み込まれたときに何とも言えない安堵があった。  怖かったな、と実感がこみあげてくるのと同時に、その相手に気遣われ、結果的になぐさめられたこと。一瞬で相反する出来事が起きたことに、言い表せない苛立ちがあった。 「俺は寝る。お前が部屋までお送りしろ。あの鬼畜もそこにいるのか」 「アーネストは廊下で待たせている。王女のことを心配している」  アーネスト。名前を聞いただけで、胸が痛んだ。 (心配している……?)  ここでいま、何が起きたかわかっているのだろうか。  一方のアルザイは大げさな溜息をついた。 「さっさと行ってくれ。あいつと顔を合わせると、血を見る」  言い捨てて、アルザイは窓際まで歩いていくと、ソファに大きな体を投げ出すように座った。青年はその様子を見て、淡々とした調子で言った。 「そのまま寝ないように。後で人に確認させる」  アルザイはもはや何を言うのも面倒くさそうに眼を瞑り、手で追い払う仕草をしていた。
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