機嫌の悪い面々と、機嫌の良い神官

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機嫌の悪い面々と、機嫌の良い神官

「私に何かあったら、月の王が黙っていない、と。言っていたな」  翌日。  髪を整えることもせず、前夜の服装のままのっそりと現れたアルザイを見て、側近の青年は軽く眉をひそめた。 「昨日はイライラしていた割に、きれいな身なりをしていると思ったが。王女に気を遣っていたんだろう。だが、今日に持ち越すのはだらしない。生活の乱れは為政者の大敵だぞ」 「うーるせぇなぁ。お前、ほんっと、うるせぇ」 「ほら。頭が働いていない。ろくな罵倒ができていないようだ」 「……何がほら、だ。ほら、ってなんだ。そもそもろくな罵倒ってなんだクソが。ていうかお前、罵倒じゃない言葉を組み合わせて君主を罵倒するの得意だよな」 「陛下は誉め言葉ではない言葉を組み合わせて俺を賛美するのが得意らしい」 「死ね」  完全に面倒くさくなり、アルザイは言い捨ててそっぽを向いて執務机の椅子に座る。その後ろに立った青年が、アルザイの髪を指で軽く梳いて日除けの布を巻き始めた。 「で、どう思う。お前も聞いたんだろ」 「陛下が最低だという話を蒸し返していいのか」  青年の指がかすかにアルザイの耳に触れて、髪に隠れていた紅い耳飾りが揺れた。装身具はつけるときとつけないときがあるが、それは前夜からのつけっぱなしだった。一度去った青年の指が、きまぐれのように再び耳飾りに触れ、アルザイは溜息をついた。 「……お前……、静かに機嫌悪くなるのやめてくれ。さすがにわかりづらいぞ」 「この場には俺と陛下しかいない。通じる相手に通じたので目的は達している」  とても回りくどい言い回しで、機嫌が悪いことを肯定した青年は、アルザイの肩に片手を置いた。 「ゼファードも黙ってやられっぱなしじゃない。侮り過ぎたんじゃないか」 「それでなんでお前の機嫌が悪くなる。喜ぶところじゃねーのか」 「……慎重な男だと思っていた。まさかそんな豪胆なことをするとは思ってもいなかった」 「言うほど意外でも豪胆でもないんじゃないか?」  何気なく返し、大あくびをしてから、アルザイは動きを止めた。 「昨日あの鬼畜美形と何を話した?」  その問いかけに対しての青年の反応は恐ろしくそっけなかった。 「何も」  確実に嘘の響きだった。
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