最低

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「ひきます……」  アルスの笑顔とは対照的に、セリスは大いに顔を強張らせて正直に告げた。やることなすこと薄気味悪い。  しかし恐怖を与えるという意味では成功していて、セリスは全身が強張っていくのを感じた。アルスに対しても、こんな状況に陥ってしまった自分に対しても、盛大なやるせなさがこみあげて来る。情けない。 「最低」   呟きに、アルスは声を立てて笑った。  笑いながら、セリスの髪に巻き付けた布を優しい手つきではずしていく。あらわになった銀の髪を指で梳いて、歌うような優雅さで言った。 「もっと罵って構いませんよ。そういうの、大好きなんです。どうせならすごく痛くしてあげますから、罵りながら、泣き喚いていいですよ」 (最低。そんなどす黒い性癖を全開にしなくても)  セリスは睨む目に力を入れつつ、横向きに倒れた身体の下の剣の感覚を追う。幸い、奪われていない。身体は重いが、先程よりはマシになってきている、気がする。  思った以上に動けるかもしれない。  アルスの言っていることは了解した。  少なくとも、いきなり命を奪う気はない。ならば、機会は必ずある。それこそ、身体を貪るというのなら、その最中には隙が生まれるのではないか。  冷静に作戦は立てるものの、いざその時が来たら、というのは恐ろしくて具体的に思い浮かべるのを心が拒否していた。  ただ、諦めるな、相手から目を逸らすなと自分に言い聞かせる。  セリスの心の裡など読めるはずがないのに、アルスは妙に気安い調子で「そうそう」と言い出した。 「私の立場を気にしていたようですが。位置づけとしては、特殊工作員といったところですね。主に裏方です。裏方としては古参ですし、表の仕事もしますので神殿内では神官として通してますが」  とても不穏なことを言っている。  薄々察してしまったセリスの気持ちを丁寧に粉砕するように、付け足す。 「あなたがどう頑張ったところで、勝てない相手だと思ってください。今あなたの剣がそこにあるのは、私がまったく脅威に感じていないからです。もちろん、試してもいいですけど。お仕置きが増えますよ。私はその方が楽しいですが」
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