激突

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 セリスの身体の脇に手をついたまま、アルスは右手でセリスの銀の髪を指で梳く。セリスは目を逸らさずにアルスの顔をまっすぐに見上げていた。 「怖がらないですね」  アルスが微笑んで、少し呆れた口調で言う。 「喜ばせたくない」  少女にしては硬質で、少年にしては甘い声でセリスが答える。  見た目もまた、その声を裏切らない。少女のように可憐な目鼻立ちをしているが、少年のように涼しいまなざしをしている。何度見ても、少女にも少年にも見える。うつくしくて、不安定。 「あなたのその態度は、単に気が強いだけでは説明がつかなさそうですね。あなたには穴が開いている……あなたの、ここにね」  言いながら、アルスはセリスの胸の中心に軽く手を置いた。  その瞬間、セリスがひゅっと微かに息を飲んだ。  ごく小さな反応だったが、アルスにはそれで十分。見逃さなかった。  掌に力を加えて、胸をぐっと圧迫する。苦しさにセリスが顔を歪める。身体の緊張が伝わってくる。 「ああ、なるほど。触れられるのが怖くないわけじゃないんですね。少し、安心しました」  アルスはゆっくりとセリスの服の上から鎖骨をなぞり、その固さを指先に感じる。そして再び胸の中心に指で触れる。薄い肉付き。力を加えたら、砕けてしまいそうな骨の脆さが伝わってきた。鍛えてもそういう体質の者もいるが、セリスのそれは違う。 「男の振りはさほどうまくないと思っていましたが」  アルスの囁きにより、セリスの目の奥に、はっきりと恐怖らしい恐怖がよぎった。  その事実に、アルスは満足した。優しく髪を梳き、額に軽い口づけを落とす。 「ようやく、理解したようですね。自分に何が起こるか」  絶望に染まった顔を見ようとアルスが顔を上げたそのとき、セリスが拳を振り上げた。アルスは片手で危なげなくそれを受ける。 「もう動けるんですか。意志が強い」  くすくすと笑いながら、受け止めた手を広げて、指に指を絡めて寝台に押し付けた。そのまま、首筋に噛みつくように唇を寄せて── 「……()()()()」  ひそやかに呟いて、身を翻して寝台を下りた。長い髪を指で梳いて耳にかける。  乏しい光の中、視線を流す。手は床に置いてあった剣を掴んだ。それはおそらく始めからそこにあったのだろう。必ず来る何者かに備えて。  気配。布で仕切られた戸口の向こうに誰かがいる。  セリスが気付いたそのとき、アルスが口を開いた。 「外は」 「ひどいことになっている。よくもあれほどのゴロツキを、ここまでひきつけてきたものだ」  そっけないまでの、簡潔な返答。  アルスは聞こえよがしな溜息をついて、言った。 「それでどうして、一人で来たのかなこの自信家は。頭に血が上りすぎでは? 正規軍を動かす権限があるんだろ?」 「アルスがいれば十分だ。お前も最終的には殺す」 「大きく出たな、ラムウィンドス」 
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