生きるための嘘と本当

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生きるための嘘と本当

「……何がどうなっているのか、よくわからないのだけど。あの二人って、仲が良いの? 悪いの?」  アルザイの執務室を出てきた「太陽の遺児」とセリスが激しく言い合う様子を見て、ライアは正直なところを言った。  問いかけられたアーネストは二人から目を離さぬまま低く唸った。 「三年やからねー。あの男が、あのひとの変化を受け容れらるか……。三年前のあのひとはお小さくて、お可愛らしくて、無垢っちゅうか。あの男の中ではそこで止まってる。街ではぐれて一人にしたって言ったら怒髪天やった……。見たことないほど慌てとったし。あの男にとってあのひとは、守るべきか弱い人以外の何者でもないから」  ライアは、隣に立つアーネストの秀麗な美貌をそっと横目で見ながら言った。 「それなら、あなたの方がよっぽどセリスのことわかってるってことね。信じて、手を離すことができるんだもの。実際、セリスは無事に王宮までたどり着いた」 「いや、あの男が血相変えて迎えに行ったからやで、それは」 「結果論よ。それこそセリスの運が強かった。あなたはそこを信じた。もしかしたら、あの男が手助けしなくても、案外無事にたどり着いたのかもしれないわ。私は三年前のセリスを知らないけれど、少なくとも今は過保護な人間に口出しして欲しい人には見えないのよね」  廊下で立ち話をしている二人に気付いたセリスが、軽く手を振って歩み寄ってくる。  ラムウィンドスはいまだに何かくどくどと言い続けていた。セリスは右側、ラムウィンドスの立つ方の耳に手をあてて聞いてないふりをしていた。 「ちょうどよかった。二人に言っておきたいことがある。先程、アルザイ様からマリクという名前を賜った。僕は今後王宮でその名前を名乗ることになる。セリスの名前は忘れて欲しい」  さらりと言われた内容に、アーネストが目をみはった。 「マリク……様ですか」 「月の王家の容姿は希少、という話を最近知った。それ自体は隠せないものと思って過ごすけど、身の振り方は少し考えることになる。アーネストに関しても、追ってアルザイ様からお話があると思う。帰国は今のところ、無い」
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