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麗人
「これはこれは、第二師団ご一行じゃないか。こんな奥宮まで何か用かい?」
両手を大きく広げたゼファードが、陽気な調子で先んじて声をかけた。
数人が頭を垂れたが、先頭にいた一人はまっすぐ顔をあげたままであった。
肩に蜜色の金髪を流した青年。
後頭部で軽く一房束ねているらしく、量の多そうな髪が鬱陶しくは見えない。瞳は冷たい青。顎が細く、精巧な彫り物のように整った顔立ちをしていた。
青灰色の軍服に包んだ身体はほっそりとしており、決して背が低いわけではないのに華奢な印象すらある。しかしその表情にも、隙の無い出で立ちにも、一片の甘さもない。
それが、常人離れしたうつくしさとあいまって、ひどくさめた空気となって彼を取り巻いていた。
青年は無言のまま、身体をそっと傾け、ゼファードの肩越しに後ろをうかがうようにした。
一瞬、セリスと目が合った。
すぐにゼファードが動いて、セリスから青年は見えなくなった。
「我が妹姫に何か用かい? アーネスト団長」
「……王子のせいで見えん」
アーネストと呼ばれた青年は、ぼそりと言った。セリスはかすかに首を傾げた。何かいま、違和感があったな、と。
「あっはっは、そりゃ、お披露目もまだだからね。タダでは見せられないよ!」
そう言って、ゼファードはどこからともなく扇を取り出し、ぱらりと開いてみせた。
アーネストの声だけが聞こえた。
「タダやないっちゅうことは……」
「うん。アーネスト、下手の考え休むに似たり、だ。考えても時間の無駄だよ」
二人からやや離れた位置に立っていたラムウィンドスが、組んでいた腕をとき、ため息をつきながら割って入った。
「アーネストをからかうのはやめてもらおう。迷惑だ」
「ラムウィンドス、お前は私に本当に冷たい」
「優しくされたいのか」
「もちろん」
ゼファードの声が、妙にはずんでいる。
一方、ラムウィンドスの返答は、これまでにないくらいそっけなかった。
「嫌だ」
そのまま、何やら真剣な顔をして佇んでいるアーネストに向き直った。
「貧乏くじでもひいたのか」
「貧乏って名前やなかったけど、クジはひいた。負けた。姫さまを見てくることになった」
「私が思うに、おそらくアーネストがひくとどんなクジもそういう名前になるんだよ。大当たり以外出したことないだろう?」
すかさずゼファードが口をはさめば、アーネストがやけにきっぱりとした調子で答える。
「いや、ハズレしか引いたことがない」
「殿下。もってまわった話し方はやめろと言っている。アーネストを困らせて楽しむな。ああ、ちなみに俺がこう言ったからって、ラムウィンドスは優しくないとか私のことを愛してないとか言うのはやめるように。毎日そうだその通りだ俺は殿下に態度を軟化する気はないと言い続けている身にもなれ。面倒くさくて仕方ない」
「ラ」
「黙れ」
聞いている方がハラハラしてしまう会話が続いており、セリスは無意識に腹をさすっていた。
こういうときに腹部が痛むのを『胃が痛い』と表現するというのは知っていたが、まさか本当に痛くなるものとは知らなかった。
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