生きるための嘘と本当

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 明るい茶色の肌に、ゆったりとしたクリーム色の服を身に着け、癖の強い黒髪を首の横で結っている青年だった。 「月光の滲んだ白い肌に銀の髪……。月の人だね。立てる? 具合が悪い?」  気安く声をかけられて慌てて立ち上がると、青年はおっとりと笑った。 「マリクだね? アルザイ様から仰せつかって君を探していたよ。中庭あたりにいるんじゃないかと、聞いていた通りだ。私はエスファンド。君に仕事を教えるようにと言われている」 「は、はじめまして。よろしくお願いします」  マリクの名前を知っているのなら、間違いないだろう。感情に任せて行動し、アルザイに見透かされていきなり迷惑をかけていることに自分のことながら呆れてしまった。何もかも強気で言ったのに、アルザイにしてみれば片腹痛いに違いない。アルザイだけでなく、もしかするとラムウィンドスも……。  考えると気が遠くなりそうだったので、目の前の人に集中しようとした。 「申し訳有りません。僕の方からあなたを訪れるべきなのに、お手間を取らせてしまいまして」  エスファンドはおっとりとした笑みを浮かべて言った。 「泣いたの?」 「はい」  目元に名残があったのだろう、誤魔化しようもなく頷くと、エスファンドは小さく声を立てて笑った。 「正直なひとだね。私も正直なので先に言っておくけど、アルザイ様は君に関して『特別扱いする必要はないが、死んだり傷つけたりしたら関係者全員の首が飛ぶと思え』と言っていた。他の者には君の扱いは難しいと思うので、私からあまり離れないように。必要なことはすべて私が教えるよ」 「アルザイ様がそんなことを……。正直に、ありがとうございます」  それはそうだ、としか言いようがない。月の王族でアルザイの賓客なのだ。特別扱いしないなど、建前でしかないだろう。   セリスとしては心底情けない気持ちで礼を口にしていたのだが、エスファンドは面白そうに瞳を光らせていた。 「私はそういうのを気にしない、いやできないというべきかな。君主がアルザイ様でなければ、とうの昔に殺されているとよく言われる。君もそのつもりで。手始めに水の話でもしようか」  エスファンドはその場に座り込んだ。どういうことかとセリスも横にしゃがみこむと「疲れるから座った方がいいよ」と言われたので、その通りに腰を下ろす。それを待たずに、エスファンドはすでに話し始めていた。
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