偽りの告白

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偽りの告白

ひろって、お子ちゃまね。 天井を仰ぎ見ながら胸の前で手を組むひろのその姿は、欲しくて欲しくて、けれども手に入れられない物だと諦めていた物が、唐突に贈り物として与えられた子どものようで。 「神坂さん、ぼくもあなたのことが好きです。こちらこそよろしくお願いします」落ち着きを取り戻すなり頭を下げるひろから、あたしは視線を逸らした。 「神坂なおみ、席につけ」 林田が教室に入ってきた。 林田のせいで、クラス一、ううん学年トップのひろ――野田康弘のあたしへの恋心を利用することになったのだけど、今はその場から離れられることに安堵を覚えてしまう。 林田の授業が始まって数分後、背中を突かれ、小さく折りたたまれた紙が手渡され、林田の目を盗んでそれを開ける。 (ひろ♡なおみ) 手紙の主はさやか。ひろの好きなコは誰? の問いに、あたしを名をあげたと耳打ちしてきた張本人。後ろを盗み見た彼女の瞳は猫じゃらしに跳びかかる猫そのもの。 で、休み時間になるなり、「ひろと付き合うだなんて、うける~」とからかいにきた。 「赤点回避のためよ」そう、すべては赤点回避のため。 ……なのになぜ、歓喜しまくるひろの顔が脳裏から離れないのだろう。 「……で、ひろと付きってどうなの?」 「どうって、ただ勉強を教えてもらっているだけよ。ほら、これ、ひろが数式の解き方を教えてくれたときの画像」 ひろのノート画像は、テスト前になるとクラス、ううん、学年全体に拡散される。ひろはそういった物を持っていないから、誰かがひろのノートの画像を撮って、それを別の誰かが画像を保存して…… ――今回のひろのノート画像は、あたしが拡散元になりそう。 「うわぁ、助かる~」 さやかはさっそくその画像を見ながら、自分のノートへ書き写す。その様を見ながら、あたしはひろにそれを教えてもらったときのことを思い出す。 勉強した場所は学校の図書室。どこで勉強教えてくれるの? と聞いたら、ひろがそこでしようって。あたしやひろの家でと言われなくて、ほっとしたのは内緒。 ひろはあたしがつまづくポイント、ポイントをノートに書きながらていねいに教えてくれた。その間中、ひろはあたしに後ろから抱きついたり、キスを迫ったりすることは一切なかった。 他の男子なら、隙あらばそういうことをしてくることがあるというのに。 「野田くん、あたしって、女として魅力ないの?」迫りたずねたあたしに、ひろは目をそらしつつ、あたしといっしょにいるだけでドキドキだ。と耳を赤くしてこたえた。 学校内外で繰り広げられる恋の鞘当てのその先、教師らが口を揃えていう、お前達は、まだ学生の忠告のその先にいっているコは何人もいるというのに。 「ひろってお子ちゃまね」 「うーん、どちらかというと真面目かな」 そう、真面目。教師らが思い願う高校生そのものだもの。  期末テストが返ってきた。学年トップはやはりひろ。あたしは無事赤点回避をし、さらに自己最高得点をマークした。 テスト勉強のお礼にどこか一緒に出かけない? そう告げたときのひろの顔ったらもう、あたしが偽りの告白をしたときよりもさらに喜びを爆発させて、こちらが気恥ずかしくなった。 そうして約束の日、待ち合わせは学校の最寄り駅。ひろがデート先に選んだのは、学校とは逆方向にある、「旧街道……」 待って、待って。この先の細道は、夜の繁華街で…… 焦るあたしをよそに、ひろは旧街道沿いの喫茶店兼古本屋へとあたしを招き入れた。 「こんなところに連れ出してごめん。カラオケとか、ファミレスの方がよかった?」 「ううん、素敵なお店ね」 お世辞でもない。いつか行きたいねとさやかとおしゃべりしていた、今話題の昭和レトロの世界がそこにあったのだから。 「……よかった。こんな喫茶店に行きたいって耳にしたから。がんばったご褒美がいつもここのクリームソーダなんだ」 そうなんだと相槌を打ちながら、ひろと同じクリームソーダを注文する。 やがて運ばれてきたクリームソーダを、おそるおそる口にする。 ん? これは…… 「めちゃくちゃ美味しい!」 あたしの驚く顔に微笑むひろ。 いっしょにいるだけでドキドキする。――そう語ったひろの声が、なぜかあたしの頭の中にリフレインする。   
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