投稿作品集：短編小説中心

ネームギアス

名前：なまえとは、物や人物に与えられた言葉のことで、対象を呼んだりする際に使われる。（中略）多くの場合、名前とは人名である。Wikipediaより抜粋。

マイナンバー制度：行政の効率化、国民利便性の向上、公正な社会の実現のための社会基盤です。マイナンバーは一生使うもので、マイナンバーが漏えいして、不正に使われるおそれがある場合を除いて、番号は一生変更されません。総務省ホームページより抜粋。

まずは提出していただいた、あなたとあなたの家族のマイナンバーから得た情報のデータ削除の確認からお願いします。

はい、情報削除完了いたしました。

あなたの身体に突如おとずれる痛みの原因が、数々の検査から判明いたしました。それについて語る前に、少しばかりわたしの話に付き合ってください。

わたしの名前からわかると思いますが、わたしはこの国の人間ではありません。わたしたちの国では、子どもの誕生と同時に12桁のコードが与えられます。そのコードは個々の遺伝配列が元になっており、二親が誰なのかをはじめ、既往症、つまり今までに罹った主な病気、アレルギーなど、身体に関する事柄が蓄積されていきます。
――そう、あなたから提出していただいたマイナンバーより、個人の身体に特化したもの。と考えていいでしょう。
わたしたちの国では産まれた子どもに、その12桁コードの一部と呼び名を合わせた名前をつけます。子どもの成長や健康、幸せなどを願ってね。
それがあなたの身体の痛みと何の関係があるのだと言いたいのですね。……ええ、関係があるのですよ。
わたしたちの国では、人ひとりの身体と精神を守るために、容姿や精神的苦痛を与える言葉で人を呼ぶと、罰金として自動的に呼んだ者へ支払われるという制度があります。そしてこの春、あなたの国でも同様の制度が施行されたのですが、ご存じないのですか？
2020年頃でしたか、ある小学校で施行されたいじめの要因となりうる渾名の使用禁止。これが一般社会へと適用されるようになりました。その対象とされた言葉は、性別、血筋、出身地や、容姿、年齢、障害など人権に接触するものとなっています。
検査結果やマイナンバーに蓄積されたデータから総合すると、今までは罰金だけだったものが、あなたがその行為を辞めないと判断され、あなた自身が誰かに発した精神的苦痛が、あなたへ肉体的苦痛へと返されているようです。
……そう、それがあなたの身体におとずれている痛みの正体です。あなた思わず口にしたり、ネットに書き込んだりした誰かへの言葉。それが原因です。
ちなみに誰かとは、あなたの家族ひとりひとりも含まれています。
ですので、医者としてあなたに対する治療は、身体の痛み止めを処方することしかできません。まずは人を呼ぶとき、名前で、あるいは、その人にとって呼ばれてもよい渾名や愛称で、呼ぶことからはじめてください。
男性は特に家族に対して、そのような言葉を発してしまう傾向が高いので。
そうそう、マイナンバーの各個人の基本情報更新時、運転免許証などで意識改革のためのカリキュラムが行われるので、必ず参加してください。
このカリキュラムを逃れられると謳うものや、個々個人のマイナンバー番号変更ができるという勧誘があると思われますが、あれはすべて詐欺ですのでご注意ください。
会計と同時に、そのカリキュラムの冊子をお渡しいたしますので必ずお読みになってください。繰り返しますが、あなたの心身に及ぶ不調は、あなた自身の心身を改善するほかに治療方法は存在いたしません。
では、お大事にどうぞ。

20xa年、いじめ防止の観点から行われていた渾名禁止が一般社会にも導入され、マイナンバーに渾名記入欄が追加。

同年、名誉毀損、個人情報流失、精神的苦痛に対して罰則の追捕。

20xb年、名誉毀損、個人情報流失、精神的苦痛に対する罰則に肉体的苦痛が追捕。その罰則苦痛が要因となる死亡事項が急増。

20xc年、マイナンバーの番号変更申し込みが相次ぐ。その背景に家庭内暴力や数々のハラスメントが浮上し、社会的問題と認識されるようになる。

同年、マイナンバー番号変更に関連する、詐欺被害が急増。

同年、意識改革カリキュラム実施開始へ。