falling

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――まただ。また、あの強い光に近づいている。その強い光に近づけば近づくほど、己の核がじりじりと削り取られる。 己の周りに現れた淡い青緑のベールが現れるたび、強い光に己が消え失せてしまう恐怖に、この捕らわれた軌道から逃れるすべはないものか。とか、己がかつていた漆黒の宙に漂っていた頃に戻りたい。だとか、そんな回想すら否応なく、強い光が消し去ってしまう。 ――軌道の進路が変わった。 今回も一番危険な頃を逃れたようだ。 削り剥がれ、己の周りを漂う塵を吸い込み、ほうっと吐き出す。その矢先、己は目の当たりにしたのだ。強い光に照らされ、ゆっくり回転する碧の星に。 どくり。己の中心から何かが迸る。 己は遠ざかる碧き星を凝視したまま、漆黒の宙へとひきづりこまれていく。 ――あの碧き星は幻だったのか? 己は存在を確かめるために、宙漂う塵を集め、核を増やしに増やし、あの強い光に向かう軌道に変化した途端、蒼き星を探すことに集中した。 結論から述べよう。己は強い光に向かう最中、碧き星を探すことはできなかった。だが、強い光から離れていく軌道へと変わってから、その念願の蒼き星を見つけたのだ。 ああ、碧の星よ、己はあなたのことをもっともっと知りたい。 だが、己から蒼き星に問いかけるすべを持たない。だが、その答えは意外な形で知った。――そう、碧き星に住む生き物、ニンゲンからだ。 ニンゲンは、その星に地球。Earth(アース)、Terre(テール)、Erde(エールデ)などなど、様々な呼び名をつけていた。 ちなみ己は、彗星、箒星、comet(コメット)などと呼び、長らく凶星だと怖れられていたことがあったというが、そんなことなどどうでもいい。 蒼き星、ああ碧き星、碧き星よ。 ニンゲンの言葉を借りれば、己は碧き星にヒトメボレにカタオモイなのだとしても、碧き星が愛おしいくて仕方がない。 遠く離れた漆黒の宙にいても、己は碧き星のあるべき方向ばかり見、だが、碧き星に近づくたびに、この想いを蒼き星にどう伝えればいいのかわからない。 強き光の軌道を外れ、碧き星の側に居たくとも居られぬのが歯痒い。 そんな折だ。碧き星の側に丸い物がいるのを見つけたのは。 ――月。moon(ムーン)、lune(リュンヌ)、Mond(モーント)…… ニンゲンは、それにいくつもの呼び名を与えていて、己と同じように、月にもニンゲンらが碧き星について調べたことや、代々語り継いでいた話や、新たに創り出したものがあることを知る。 しかも、その数は己の何倍、何十倍も多く…… うらやましい、うらやましい、うらやましい。うらやましすぎる。ずっと碧き星の側にいられるなんて。 ……ずるい、ずるい、ずるい、ずるすぎる。碧き星の側にいたくて仕方ないのに。 己は核の表面を剥がし、それに向かって飛ばした。もちろん、碧き星に当たらない角度を狙ってだ。 飛ばした核の欠片が月に当たったのか、当たらなかったのか確かめようがない。 いつものように、いや、今まで以上に多くの塵を集め、己の一部に取り込み、己は強き光の近くまできた。もう少し辛抱すれば、碧き星の姿が見られる。 ……ん? あれは何だ? もしや、もしや、もしや…… 間違いない、碧き星からだ! 嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しすぎる。 碧き星から放たれたそれ、強き光に削られてたまるものか! まもる、守る、護ってみせる。 ――ああ、碧き星よ、守り抜いたぞ。なのに、なぜ、己から離れていくのだ? あああ、いくな、いかないでくれ! ――ミシッ。 己は歪んだ。   
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