残画

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お母さんのお父さん、つまりお爺ちゃんが亡くなった。帰宅したばかりの私に、母からの電話でそれを知らされた。 「お爺ちゃん、いくつだったっけ?」 「米寿のお祝いどうしようかって、話していた矢先だったわ」外孫だし、貴女も忙しい身だから無理して来なくてもいいわよ。と母はそう続けた。 「うん、そうする」 電話を切り、ベッドに仰向けに転がる。 コロナ禍のうえ、数多の人と接することが多い仕事柄なのもあって、お爺ちゃんと長く会っていないなと頭の片隅で思っているうちに、この知らせ。 「こんなことになるなら、無理矢理でもお爺ちゃんに会いに行けばよかった」 私はスマホの画像フォルダを遡る。今日、昨日、ひと月前、半年前…… 「……あった」 日付は六年半前。胸にピンクのコサージュをつけ、卒業証書を持つ私と一緒に自撮りしたお爺ちゃんの姿。 お爺ちゃんは、私のお母さんが産まれて一年を待たずに妻、私から見てお婆ちゃんに先立たれ、自宅兼仕事場である写真館で、お母さん達兄妹を育て上げ、それぞれ家を出たあとも、そこで独りぐらしを続けていた。 私が卒業したら店をたたむ。と言っていたのに、その自撮りした写真に興味津々だったことをふと思い出した。 「お爺ちゃん、ほんと仕事のムシだったな」 ふふふと思わず笑みがこぼれる。 進学した高校は、お爺ちゃんの家から近かったのもあって、よく立ち寄ったし、お爺さんの仕事場の裏路地は、格好の撮影の場所だった。なので、スマホの画像フォルダを遡れば、時々お爺ちゃんが映り込んだ写真がある。 「あ、これは、最後の文化祭の頃の。学校だけでは仕上がらなくて、お爺ちゃんの仕事場の二階借りたのだっけ」 出前取ったから、みんなで食べなさい。と、差し入れしてくれたっけ。 「不器用だな。ほら、釘はこう打つんだ」 パネルの釘打ちに、写真展示の仕方のコツなんかも教えてもらった。 「そうそう、体育祭の後の打ち上げ後、電車が不通になってしまって、急遽泊まらせてくれたこともあったわ」 まだ学生の男女を同じ屋根の下で寝させるわけにはいかないからな。おい、文房具店の亭主よ、お前の店の二階、ちびっ子広場として解放しているのだったよな。野郎共の寝床にしてもらえるかい。礼はそうだな、次の対戦、飛車角抜きでどうだ? 学校帰りに立ち寄ると、お爺ちゃんはいつも文房具店の亭主と将棋をさしていた。その人が、お爺ちゃんの危篤をお母さん達に伝えてくれたそうだ。 私が写真を生業にするきっかけになったのは、中学生の時だったか、家の奥からまだ現像していないフィルムが出てきて、お爺ちゃんならと、たずねたのがきっかけだった。 赤灯りの元で、現像作業するお爺ちゃんの姿に息をのみ、作業している様をお爺ちゃんの仕事道具でもあったカメラで撮っていいかと問いかけたこと。 そしてその写真を文化祭に出して、担任の先生が、その写真を応募に出して…… 「お爺ちゃんの願いごと、貴女が叶えるのね。と嬉しそうに言っていたわ」このアパートに越した時、お母さんから、お爺ちゃんからと祝儀袋を渡された。 ――そうだ、お母さんにあの時撮ったお爺ちゃんの仕事場での写真、送ってあげよう。 私は画像をフォトアルバム一覧に切り替え、順番にお爺ちゃんが写っている画像をタップしていく。 「あれ?」 フォトアルバムの一番古いお爺ちゃんが突如立ち上がり、フォトアルバム一覧の画像を歩き出した。 「ええっ!」 私の驚きをよそに、お爺ちゃんはしきりにある一点を指差す。今住んでいるアパートの一室を映しだ写真だ。 私はスマホ片手に、その指差さした先をたぐり、お爺ちゃんからの祝儀袋を見つけた。 「お爺ちゃん、もしかしてこれ?」 スマホ画面のお爺ちゃんがうなずき、私はその祝儀袋を手にした。 あれっ? なんだか重みがある。私は祝儀袋を開け直し、白封筒に貼り付けられた小さな鍵を見つけた。 スマホ画面上のお爺ちゃんにその鍵を見せると、お爺ちゃんは仕事場でくつろぐ自分の画面へと移動し、ある一点を指差し、すっと消えた。 その場所は確か金庫…… お爺ちゃん、わかった。そこに行けばいいのね? 私は慌ただしく家を出、故郷に向かう最終便の夜行バスに乗り込む。着く頃はきっと、お爺ちゃんのお気に入りの写真スポットが、朝焼けに様が待ち構えているに違いない。
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