おめでとうを君へ

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あちこちのグループを避け、さりげなく彼女が良く見える位置へ移動してみた。わざと飲み干したグラスに、ジンジャーエールを注ぐ。 彼女はずっと、楽しげに喋っている。小さく揺れ続けているシャンパンゴールドのカクテルドレスは、どこかクリスマス音楽の鈴を思わせた。 その時だった。クリスマスツリーの星飾りの様に、彼女の手元が煌めいているのが目についた。 「あれ今井ちゃん、結婚したのーー?」 今井さんの向かいに立つ中島さんが、騒いだ。周りの数人も、同じように騒ぎ出す。 「いやまだ結婚はしてないんだけどね、婚約したんだ!」 水仙の笑顔で、彼女は整った指を皆に見えるようにした。 地中の奥底に潜んでいるようなダイヤモンド。 「おめでとう!!」 「早! 私たち20歳だよね!?」 「うわぁ素敵!」 「お相手はどういう人? どこで出会ったの?」 気になることは、すべて周りの女性陣が聞いてくれた。 正直、心配だった。3歳上のフリーランスのその男は、この水仙の彼女を幸せにできるのだろうか。一生大切にできるのだろうか。 「お、浩太じゃん! 久しぶり! こっち来いよ!」 名前を呼ばれて、騒がしさに気づいた。仲が良いというほどでもなかったクラスメイトが、満月に近い存在に感じる。 「おう!」 彼女のことはもうどうにもならない。きっと。それを拭おうとしたら、思いの外大きな声が出た。その声も、この新成人で賑わう小宇宙では、僅かな吠え声となる。 「今井ちゃん聞いたよー! おめでとう!」 細谷先生が彼女たちの群れに加わった。 名前だけ知っているだけのその先生が、ものすごく正直な白い輝きに思えてくる。 どんどん形成されてゆく人だかり。その様子を、何も言えない声帯はただ眺めることしかできなかった。 ゆっくりと心に広がる、真空の闇。 その片隅で、まだ制服を着た今井さんが彷徨っている。
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