籠の鳥の詩

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あの日僕は鳥になった。 戦争は負けたと聞いた。 でも僕はうれしかった。 大好きな人と一緒にいられることがうれしくて。 高い屋根の上から見た風景は、僕の心を天高く空まで押し上げてくれたんだ。 外はにぎやかな太鼓やラッパの音が聞こえる。 「白兎は耳が悪くてもこういう音は聞こえるんだな?」 肩に乗せたあごから聞こえる声。 兄様が頭を寄せる、僕も頭を寄せてその声を聴いていた。 「兄様、なんか手を上げてるけど、お祝い事でもあったんか?」 外では、たすきをかけた男の人たちに向かい、万歳、万歳と手を上げておる。 「あの人たちは戦争に行くんじゃ」 「戦争?」 「俺たちは病気があって行けんし、お前は耳が悪くて行けん、非国民じゃと」 「非国民てなんじゃ?」 「俺らは、役立たずってことさ、ゴホ、ゴホ」 俺は兄様の背中をさすってやった。 俺たちは売られてきた。 細い体は、男手がほしい所からは何処も断られ、来たのは廓屋、でもここには女がいない、ここは男しかいないんだ。 ここを出る時は、見受けをしてくれる人が現れるか・・・死んだ時だけ。 俺たちは家族に売られたものたち、帰るところはないと言い聞かされてきた。 戦争に行けたらな・・・外に出られるのにな・・・ 「ばんざーい、ばんざーい」 戦争って何なんだろう? 俺たちはこの大きな屋敷から出られない。 窓の外、スズメでさえもあんな広い空に飛んで行けるのに。 僕は外を見ていることしかできない。 今日も外はにぎやかだ。 「ばんざーい、ばんざーい」 だんだん泣いている人が多くなってきたように見えた、それは太鼓やラッパを吹いていた人たちまでも、ばんざーいと送られていったからだ。 バタバタと走る音がした、寝そべっていた僕は、その振動で体を起こした。 兄様たちは赤紙が来たと、初めて外へ出ることができると喜んでいた。 でも何人かはここへ残る、しかたがないんだって言われていたんだ、僕は耳が悪いから、外へは出ることはできないんだって。 頑張れよ! 俺たちの分まで長生きをしてくれ! 抱き合うからだから聞こえる兄様達のうれしそうな声。 きれいなおべべも新品の雪駄もみんなおいていってしまった。 ロウガイという病にかかり、もう死ぬんだという兄様に聞いた。 みんなは帰ってくるの? 兄様は首を振りただ泣いていた。 僕は兄様に寄り添い背中をさすってやることしかできなかった。 だんだん食べるものが無くなり、庭を耕し、畑仕事なんかしたことのない僕たちは、手にまめができるほど、毎日汗を流した。 空を飛んでいた雀も取って食った。 ごめんなと言いながら。 外に出ることがあんなに待ちどうしかったのに、ある時からそれはいつしか怖いものになっていったんだ。
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