逝人式

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 私は泣かなかった。全くと言えば嘘になるが、少なくとも泣いている姿を他人に見られることはほとんどなかっただろう。「無理しないで」と言われたら、「逝人式で恨み言をぶつけてやらなきゃ気が済まないわ」と返して、気丈に振舞った。  その様子を見て息子も思うところがあったのか、子供と大人の狭間にいるような不安定さが段々鳴りを潜め、顔に残っていたあどけなさも少しずつ消えていった。息子が急に大人になろうとしているきっかけとなった「父親の死」は、夫からの最期のプレゼントだ。息子にはまだ親に甘えさせてあげたいと思っていた自分に気が付いてしまって少し戸惑った。「早く子離れしろよ」そう言って苦笑いしていそうな夫が浮かんできて、「そうだね」と一人呟いた。
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