逝人式

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 ……月日は流れ、夫の逝人式が来月に近づいてきた。  七十代に入った私はすっかり白髪になり皺も深くなって、趣味は園芸と孫の相手という立派なおばあさんになった。夫亡き後、息子は就職、結婚と順調に人生のイベントを重ね、子供三人の父親になっている。もう人生のイベントが夫の逝人式と自分の葬式しか残っていない私は、息子の人生に乗っかって、とても楽しい二十年を過ごさせてもらった。来月夫に会えたら、もう思い残すことはないだろう。  「母さん」ある日珍しく息子が神妙な顔で呼びかけた。「結婚したい人がいる」「子供がうまれることになった」、そんなセリフを言うときに見せてきたような顔だ。  「来月、ようやく父さんの逝人式だね」  「そうね、早くに逝ってしまったから恨み言をたくさん言ってあげるつもりよ」  「母さん、まだ生きてくれる?」
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