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逝人式当日。朝からよく晴れて、窓を開けると冷たい空気が頬をなでる。この日を二十年間も待ちわびた。決して短い時間ではない、なのに過ぎてしまえば何のことはない。当時の自分に教えてあげたい「そんなに悪くない二十年を過ごせたよ」と。
テーブルの上には夫の好物がずらりと並び、息子夫婦と孫たちが何の話をしようかと話している。嫁と孫たちは写真でしか見たことのない夫に会えることが楽しみなようだ。
息子は居心地が悪そうに立ったり座ったり、冷蔵庫を開けたりしめたりしている。「父さんと二人で酒を飲む時間も作ってよ」と言っていたから、男同士積もる話もあるのだろう。
夫は帰ってきてどんな顔をするだろう。息子がすっかりおじさんになって、可愛い嫁と孫がいる。妻は白髪のおばあさんだ。くつくつと笑いがこみあげてきた。早く夫の顔が見たい。
からからから、玄関の引き戸を静かに開ける音と共に、懐かしい夫の声がする。
「ただいま」
・・・「お父さん、おじいちゃん、逝人式おめでとう!」
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