Question 1 :はじまりはいつですか?

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「じゃあ会いにいくよ、連絡先教えて」 「…嫌です」 「うわ、けっこうショックなんだけど」 「曖昧にする事でもないので」 ハッキリと断れば男性はうーんと唸っている。 「じゃあ連絡して、真面目にもっと話したい」 「嫌です」 「マジで?」 はい、と頷きながら姿勢を正した。 「俺かなり惹かれているんだけど」 そんなおかしな事を言った男性はポケットから震えているスマホを取り出した。 どうやらお呼び出しみたい。 じゃあ、と一応軽く頭を下げて化粧室に一歩踏み出した。 「じゃあせめて、キミの記憶に残りますように」 小さな声が聞こえた時にはフワリとスパイシーな香りを感じて、同時に頬にほんの微かに唇が触れた感触。 思わず足をピタリと止める。 「またね」 ようやく聞けた社交辞令と一緒に男性の去っていく靴男。 …東京の男は恐ろしい…。 大きく溜息を吐き出しながら首を横に振り、心底そんな事を思った。 煌びやかな景色を横目に見ながら車窓に写る自分の表情にここでも一つ小さく溜息を零しておく。 バイバイ東京。 そんなセンチメンタルになる事でも無いけれどね。 それでも大学時代の4年を都内で過ごしていただけに、なんとなく寂しさも少しばかり募る。 やっぱり私には煌びやかすぎる場所だった。 今思えば4年間もよく暮らせたな、と思える。 自分では地元の大学に行ければそれで良かった。 でも、たまたま都内の大学が受かっていて父親にそこに進学することを強く勧められた。 お金かかるし、なんていう私の親孝行的な言葉は簡単に無視され入学金が振り込まれてしまった。 地元の友人達には羨ましがられたが、誰も知らない地での一人暮らしはそれなりに寂しかった。 大学に行けば友達できるよ、よく聞く言葉の一つだけれどもそんな簡単ではなかったな。 大学でそれなりに話せて一緒の講義を受けれる子もできて一安心したころには、地元の友人達と疎遠になってくる。 地元の友人達は《泊めて》と簡単に連絡してくるが、それは私に会いたいからではなく憧れの東京を観光する為。 必要な時にしか連絡の来ない地元の友人達に愛想笑いする事しか出来ない自分が嫌で、余計に距離は広がっていった。 その結果、地元の友人達とも大学の友人達とも適度な距離を保ったままの状態で4年間が過ぎてしまった…。
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