209人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
Question 1 :はじまりはいつですか?
大学時代の友人の披露宴が行われたこの日、都内まで足を伸ばしていた私は2次会の誘いを断って帰路に着いた。
大学の同期はほぼ皆んな都内在住。
就職先こそ違っても会おうと思えば会える距離に住んでいるというのは、友人関係を継続するには必要不可欠。
数年ぶりに会った友人達は華やかな大人の女性になっていた。
再会して数分はお互いの近況報告、そこからさらに数十分は大学時代の昔話で盛り上がれる。
でも…そこから先は、新郎側の友人達を盗み見しながら笑顔を振り撒く事も忘れず、最近オープンしたレストラン、インスタで流行っているスイーツ店、イケメントレーナーのいるジム、リーズナブルで評判のマッサージ店、友人割引のあるホットヨガ…。そんな話ばかり。
残念だけれども私の知らない話題が流れるように続いていく。
今度仕事終わりに飲みに行こうよ、の話題にも当然入れない。
話の流れで耳にしたメッセージグループの存在に少しばかり落ち込む。
一体何しにきているんだろう、とそう思えてしまう程度には彼女達と温度差がある。
「この後行く?」
披露宴が終わり化粧室に向かおうとした私の前にスラリと背の高い男性。
同じテーブルの旧友達が『カッコいい』と視線を投げかけていた人だ。
「…明日仕事で早いので、」
先程、旧友達にも散々そう言ってきた言葉をここでも口にする。
そう言えば『残念、またね』で終わりに出来る素敵な言葉。
「同じ」
背の高い男性はニコリと微笑むとポケットからシルバーの薄手のケースを取り出した。
「俺は幹事だからこの後行かなきゃ行けないんだけど、良かったら連絡して」
差し出された名刺。
「今夜でも大歓迎」
スッと屈んで小さな声でそう言われる。
「…その気はないので受け取れません」
「…それって断ってる?」
「はい」
「なんで?」
素敵な言葉の効力は女性限定だったみたい。
以外にも続いてしまった会話に首を捻るしかない。
「断られる理由を教えて」
…そうくるか。
「明日仕事で朝が早いので」
懲りもせず同じ言葉を繰り返してみる。
「うん、それは俺も同じ。社交辞令は要らないな」
やっぱり素敵な言葉はこの人には通じない。
「…地方に住んでるんです」
「ん?」
「私ここから2時間かかる地方都市に住んでます、だからわざわざ貴方とお話しに都内に来れませんし、そもそもここで出逢った男性と『何か』があったら薄氷のような友人関係が呆気なく砕け散ります」
「アハハハ!キミ面白いね!良いねー、そういう女性好きだなぁ。そんな脆い関係性でも繋いでおきたいものなの?っていうかそれを俺に言っちゃうんだ?」
「…まず、友人との関係性ですがどんなに薄氷であっても私から割る事は出来ません。今はネット社会ですから有りもしない嘘を真実のように晒されてしまうのは避けたいです。次に、あなたはカメラマンという肩書きですがこの名刺にある社名は大手です。わざわざ偽装して嘘をつかなきゃいけないほど女性に困っているようには見えませんし、検索かければすぐに身元が割れる職業なだけに良からぬ噂で自分の評判を落とすような事もしないでしょう。そんな人が私の言った言葉をわざわざ告げ口のような形で話すとは思えません」
そう一気に話せば、背の高い男性は頷きながらクスクス笑っている。
「やっぱり面白い!俺は信じてもらえたんだ?」
「…疑わなきゃいけない程コミニュケーションとるつもりもないので」
素直に答えれば軽く声をたてておかしそうに笑われる。
最初のコメントを投稿しよう!