物語の始まり

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「相変わらず綺麗だよなぁ、あの人は。うちの嫁さんも娘も首ったけだよ。旦那は俺だってのに」  一瞬のことだった。一団が過ぎ去ってからしばらくしても、俺は未だ呆けたまま、お代入れの革袋に入った金貨を弄んでいた。 「しっかしお前、ここの王様も知らなかったのかよ。いくら旅人とはいえ、物事知らなさすぎじゃないのか?」 「興味ねぇこと以外は知る気になれねぇのよ。ってか、王様がこんな風にふらっと街に出ていいのかよ」 「マリユス様は精力的な方だ、こうして王宮から出てくることはあるんだろうけど……ここまで表通りを堂々と歩くのは珍しいな。皆色めきたってら。でも実際、あの人の人気は凄いぜ。綺麗な人だし、あの人のお陰で暮らしは豊かになったしな。凄いお人さ」 「へぇ……そいつはいいこった」  ぼんやりとおっさんの話に相槌を打ちながらも、俺の脳裏からはどうにも彼の顔と、あの黒曜石のような瞳が離れることはなかった。
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