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書きたい、書けない、書きたい、書けない……。寝不足で痛む頭を賑やかな声が逆撫でした。なんだ? 外を見てみると……街が騒がしい。
なんだ? 何があったんだ? 外に出ようとする前に部屋に慌ただしいノックが響いた。なんだなんだよ、いったい……。ノブに手をかけ扉を開く。
「ワタルー!!!」
「うわっ! 抱きつくんじゃねえ! 気持ちわりぃ……!」
そこにいたのはケヴィンだった。いきなりなんだと引き剥がす。いつもうるさい奴だが……今日は相当興奮してるみたいだ。一体何があったってんだ。
「ワタル、やったよ! 僕ら、エメリアルに勝ったんだ!!!」
…………は?
「え、嘘、マジ?? 勝った、のか? あのエメリアルに??」
「そうだぞ! しかも君の本のお陰で、だよ! 戦地の兵士たちが戦意高揚のため、皆読んでたんだって!」
頭の痛みが一瞬で弾け飛んだ。待ってくれ、俺の物語が、フォンセスに勝利をもたらしたっていうのか?
「マジか…………はは、そりゃすげぇや!」
笑いながらケヴィンと抱きあった。俺の本を読んだ兵士たちが、この国を救ったんだ。出来心で始めた物書きが、まさかこんなことになるなんて、思いもしなかった。ジンと胸が熱くなって、ちょっと泣きそうになっちまう。
いつの間にか、俺の物語には強い力が宿っていたようだ。まさか国を動かしちまうなんてな!
いや、でもきっと……芸術ってのはそういうもんなんだ。誰かの心を揺さぶることができる。それってすげーことなんだよな。
「街の人たちも皆大喜びさ! 皆君に会いたがってるよ。ほら、行こう!」
「あ、ちょっと待て、置いてくなケヴィン!」
興奮冷めやらぬまま俺たちは街に出たが、たちまち群衆に囲まれてしまった。
「ワタル! あんたのお陰だ。ありがとうな!」
「フォンセスが勝ったのは貴方の力あってこそです!」
「ワタル先生のファンなの、サイン下さい!」
散々褒めそやしてきやがるから、こそばゆい気分になっちまう。そのまま、本やら羊皮紙やらしまいにはどっから取ってきたのか知らねぇ木片まで受け取って、サインに答えてやる。こりゃ外にゃ出れねぇや。ケヴィンと目配せし、人の山にもみくちゃにされながら、城の中に帰った。
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