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物語の始まり
「話、話はいらんかね?」
通りの手前、市場の隅、愛用のござの上、座り込んだ俺は両手を広げて声を張り上げた。
いつだってこの瞬間は心が弾む。興奮で俺の尻尾が揺れる。人々の好奇の視線と、物事が始まる高揚感。
「話? 変なキャストルだな」
お、1人目が網にかかった。人の好さそうな顔のおっさんだ。
「あぁ。俺は流れの話売りって奴でね。ここにちょいとお代を恵んでくれりゃ、面白い話を聞かせてやるよ」
「話を売る奴だなんて、聞いたこともない! お前、見たとこ東のやつなんだろうが、東じゃそういう商売は盛んなのか?」
おっさんは首を傾げて、俺の恰好と敷かれたござを見た。
「いいや、これは俺が始めた仕事なのさ。旅をしながら集めた話を売っているんだ。この世界のどこいっても、やっている奴は他にいないぜ。で、おっさん、どうすんだ? 買ってみるか?」
「10ゴールドね……いいだろう。試しだ。買ってみよう」
よっしゃ、かかった。
「毎度あり! じゃ、上手い茶をサービスしてやるから、ちょっと座って聞いてってくれや。昔々あるところに――――」
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