第一章 業務提携

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 「パパ、それって……」  この会社の後継者になるための条件で、美那にとって問題なのは、他の家に(とつ)いだら、一族には残れるけれど、会社経営には関われないというものだろう。  「ああ、高桑の次期社長夫人だ。  央司(おうじ)さんをこちらの家に入れる条件が、うちも高桑さんに下の娘……美那を嫁がせること。  お互いの子供が後継者の配偶者となれば、血縁が交差するから不満を(おさ)えられる。  株式を交換しない以上、血縁で結ぶしかない」  M&A*が当然の時代に、まさか、会社同士の結びつきを保証するための結婚-政略結婚をするとは思わなかった。  もちろん、恋愛結婚がほぼ不可能なのは理解していたし、受け入れる覚悟はあった。でも、それは経営のパートナーになるほどの有能な人が相手と思っていた。  央司さんという男性の能力はまったく分からない。  兄の英彦さんは知っている。次期社長としてパーティに出席しているし、時々テレビ番組にも登場するから。  誰もが振り返るだろう端正な容貌に、傲慢(ごうまん)ぎりぎりの自信に満ちた表情。彼が広告塔になればいいのにと思う。 *M&A-Mergers(合併)and Acquisitions(買収)のこと。同業他社や投資系ファンドが行うことが多いです。日本ではマイナスイメージもありますが、後継者不在の場合、会社継続の方法の一つとして有効です。
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