第二章 波乱の顔合わせ

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 「いや……譲渡の予定はなかった。  新株を発行して、それを高桑さんが引き受けるという形で締結寸前まで行ったんだ。  それを、どこからか聞きつけたらしく、姉さんと義兄(にい)さんが、高桑さんといるところに怒鳴り込んできて……」  社長室で父が怒った理由が分かった。確かに、提携の打ち合わせ中に無関係な親戚が怒鳴り込んできたら、水野の恥をさらした形になる。怒るのも当然だ。  「さすがに高桑さんは呆れてたよ。それで、株を仲立ちにすると問題しか生まないから、違う方法を取るということになって……  あんな親戚がいると知られたから拒否できなかった。  多恵(たえ)さんに相談できなかったのは、高桑の社長と専務……息子と、私の三人で、ある程度の形を作ることになっていたからなんだ」  父の説明を母は渋い表情で聞いていたけれど、言葉が終わると一つ息をついた。  「……分かりました。相談がなかったことは不満ですけど、トップ会談ではどうしようもないですね」  溜息交じりに言うと、母は美那にはっきりと言った。  「お父さまの(おっしゃ)るとおり、あちらのご長男と結婚なさい。これは命令です。  貴女は水野の娘なんですから、結婚は親の言うとおりにしなさい」
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