第三章 クロスは平行に~裏切り

28/31
前へ
/400ページ
次へ
 「ああ、それと、佳織さんは今日付けで水野珈琲(コーヒー)を退職とさせていただきます。なので、雇用関係終了の書類も同時に作成いたしますから」  「英彦さん……いくらなんでもそれは……」  止めかけた父は、英彦さんからの強い視線を受けて黙った。  「水野美那氏が経営に加わる会社に、彼女に傷つけられた女性を働かせるなんて不可能ですね」  英彦さんは、私が美那の下で働かないように気づかってくれた。それだけで、心の傷が少し消えるようだ。  今度は美那が(にら)んできた。英彦さんに大事にしてもらいながら、婚約者の弟と浮気をするような妹に不満を言う資格はない。  「でも……佳織は水野珈琲にとって……」  なおも食い下がる父に、英彦さんは呆れた口調で返した。  「なんと(おっしゃ)っても無関係です。私の妻になるんですから、そちらの意向に応じる必要はない。  佳織さんは高桑グループに素晴らしい刺激を与えてくれるでしょう。本当に楽しみです」  英彦さんが私を()めた瞬間、美那がそれをかき消すような声を上げてきた。
/400ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2269人が本棚に入れています
本棚に追加