第一章 業務提携

5/15
2255人が本棚に入れています
本棚に追加
/400ページ
 水野(うち)が札幌市内にしか店舗がないのに比べて、高桑は北海道中に出店していて、本州への進出の噂がある。  規模でいえば、高桑に提携のメリットはない。  「彼らには、利益よりプライドが大事なんだろう。第三者を入れると、老舗(しにせ)の誇りが消えると言ってきた。  本当のところは、増資すれば自分たちの保有率が下がる。創業者一族なのに、無関係な他人よりも格下になるのが我慢できないらしい」  でも、提携を申し入れたのは、間違いなくこちらからのはず。  経営陣に加わっていなくても、それくらいは分かる。決算書を読めば経営の厳しさは理解できる。  高桑は創業者一代で、北海道でも指折りの優良企業に育て上げた。だから、間違いなくワンマン社長だろう。多少、強引でないと、今の時代は通用しない。  そんな厳しい経営感覚を持っているだろう人が、株式の交換が不可能になったのに提携を結んだことが不思議だ。  「株の交換をしないのに、高桑さんは提携にどうして応じたんですか?」  株の譲渡に反対した親戚たちが、高桑の人間が役員として入ってくることを認めるとは思えない。  ()くと、父は初めて申し訳ない表情になった。
/400ページ

最初のコメントを投稿しよう!