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最後の「運だめし」
「さぁ、斉城様。最後の選択でございます」
ガイドさんの声で瞼を開く。白い。私は雪原に立っていた。足元から伸びる一本道の先に分岐点があり、左側に「〇」、右側に「×」が大きく書かれた白い板が立っている。
「どちらか一方は、救われます。答えを選んで、飛び込んでください」
「飛び込む?」
「立ち止まったり、あの板の向こう側に行けなければ、失格となります。思い切り勢いを付けて、体当たりしてくださいませ」
ガイドさんはにっこりと笑む。このシステム、昔のクイズ番組で見たことがある。正しい選択肢に飛び込めば厚いマットが受け止めてくれるけれど、間違った選択肢なら深い泥のプールが待ち構えているのだ。
「問題は……なに?」
「ご理解が早くて助かります。それでは、参りますね」
私に近づくと、ガイドさんはパンダのぬいぐるみを差し出した。その顔に、もう笑みはない。
「斉城史那様。貴女は、ご自分の行いを後悔していますか?」
冷たい風が頰を撫でる。受け取ったパンダを胸に抱える。私は正面を見据えた。1つ、深呼吸をして足を踏み出した。徐々に加速して……分岐点で大きく蹴り出すと、そのまま選択した板に向かって一直線に駆ける。板を破る瞬間、きつく目を閉じた。
――バリン!
なにかを突き抜けた感覚が、全身を通り過ぎていった。
視界が白い。雪……ではない。柔らかい光が天井に差し込んでいるのだ。軋む首を動かして、病室のベッドに横たわっていることに気付いた。あちこち骨折しているのか、動けない。
「あの……」
近くで動く気配に声をかける。
「あら、気付かれましたか。おめでとうございます、手術は成功しましたよ」
看護師さんが微笑む。彼女の後ろのテーブルの上に、白黒のぬいぐるみが見えた。
「それ、パンダ……」
「ああ。斉城さんが身を挺して助けたお嬢ちゃんが置いていったんですよ。ほら、このお手紙も」
話しながら、引き出しから取り出した紙を目の前に広げてくれた。
『おねえちゃん、ありがとう。はやくげんきになってね』
水色のリトルマーメイドの便せんに、涙が溢れた。
【了】
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