Solar Eclipse

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 テオのユカタンの調査は極めて順調であった。この地域で信仰されている神々、神々に捧げる生贄の風習、食用カカオの調理法、象形文字の解読…… 調べることは多いが冒険家魂を擽られるもので、テオは心から楽しんでいた。 そんな調査の日々を過ごす中、テオは少年達より遊びに誘われた。誘ってきた少年は黒いボールを胸に持っていた。テオは少年達と初対面の時に見たボール蹴りに使われていたものであることを思い出した。 「テオ! ピッツやろう!」 「おう、あのボールを蹴る遊びはピッツと言うのかい?」 「テオにピッツ教える。一緒に球戯場に行こう!」 テオは石造りの金字塔(ピラミッド)の近くにある球戯場へと案内された。球戯場であるが、サッカーグラウンド程の広さで、片面だけに煉瓦の壁があり、その高い位置には石造りの輪が付けられていた。少年達がルールの説明を行う。 「このボールをあの輪っかに入れるの。手で投げたり、足で蹴り飛ばしたり、頭突きで跳ねさせたら反則。腕や腰や尻でポーンって跳ねさせるんだよ!」 テオは言われた通りにボールを跳ねさせた。しかし、うまく行かずに明後日の方向に飛んでいってしまう。少年達はそれを見てケラケラと笑うのであった。 「ははは、おじさんは下手糞だな。皆は入るのかい?」 少年達は笑顔で頷いた。 「うん! ずーっと練習してきたんだよ!」 「腰の上でぽぉんって跳ねさせても輪っかの中に入るよ!」 「面白い遊びだな、スペインに帰ったら子供達にも教えてやろう」  テオは彼らの中で特に目をかけている少年がいた。名前はイツァエ、このユカタン半島の言葉で「神の送り物」を意味する。イツァエは少年の中で一番小さく、庇護欲をかられるものがあった。小さく整った顔に黒耀石のような輝く瞳、小さい肩に健康的な褐色で吸い付くような美しい肌、細い割に骨っぽさはなく柔らかい肢体、そこから伸びる手足も細くて華奢で艶めかしい。博物館に展示されるような少年のギリシャ彫刻を思わせた。イツァエの存在そのものが一つの芸術品と呼ぶに相応しいとテオは考えるのであった。 イツァエは一人っ子で普段から寂しい思いをしているのか、テオに(こと)の外懐き常にベッタリとくっつくようになった。ただ、その顔は寂しそうであった。そして、テオに頼み事をする。 「テオ? ずっとここにいて欲しいな? 駄目? ぼくのお兄ちゃんになってほしいな」 「俺は冒険家だ、いつかはスペインに帰らなくてはならない」 「うん、そうだよね。ゴメンね、変なこと言って」 イツァエは黒耀石のような瞳に涙を潤ませていた。その(さま)に庇護欲をかられたテオは思わずにイツァエを抱きしめてしまう。 ある日、イツァエはテオに言った。 「あのね、明日はピッツの試合があるんだ! テオも応援に来てよ!」 「ほう、試合とな。他の友達とかい?」 「うん、隣の部族のチームとでやり合うんだ。明日は絶対に勝ちたいんだ!」 隣の部族同士では「スポーツ」を通じて交流を行っているのか。素晴らしいことだとテオは感心を覚えるのであった。
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