Solar Eclipse

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 テオが族長(オサ)の家を後にすると、もうすっかり夜は更けていた。夜空には細い三日月(クレセント)が頼りなくか細い光を放ちながらユカタンの地を照らしていた。 「もうすぐ新月か。そろそろ船に戻らなくてはな」 テオが(ねぐら)へと戻る道中、石造りの金字塔(ピラミッド)の近くを通りかかった。麓には天の蛇の石像が一対、その間には急勾配の階段がありその頂上には「雨の神」と呼ばれる仰向けで眠る神様の石像があり、更にその上には石舞台が一つ…… 生贄を舞台の上で寝かせ、黒耀石の短剣で胸を割き心臓を取り出し、その石像の腹の上の皿に乗せることで儀式は完遂される。 部族の習慣を前に何も出来ないテオは自分自身の無力さを呪うのであった。  翌日、テオは荷造りをしていた。イツァエが編み上げた大きな茅袋の中に族長(オサ)が持たせたお土産を入れていく。黄金、翡翠などの貴金属がギッシリと入れられた茅袋を見てテオは「これを見れば本国もお喜びになるだろう」と自嘲するのであった。 すると、(ねぐら)の外が急に騒がしくなった。テオが様子を見に行くと、行列が出来ていた。神輿に乗せられたイツァエを見送る人々の行列である。イツァエは間もなく生贄になるのか全身を青い顔料で塗りたくられていた。腰布一枚に全身を青く塗られるのが生贄の正式スタイルである。後は明日の昼間まで石造りの金字塔(ピラミッド)の頂上に作られた石室で待機し、生贄として捧げられるのを待つだけである。 見送りの行列は万雷の拍手と共にイツァエに「おめでとう」と祝福の言葉を送るのであった。
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